・・・ 実際もし映画殊に発声映画の技術が発達を重ねて行ってその器械がもう少し安くなって一般の使用に便利なようになれば、多くの学校の無味乾燥な教授の大部分は映画で置換えられるであろう。全級一度に教授することによって教員の手が明く。先生方はそうし・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・ 映画では、はじめにウンラートの下宿における慰めなき荒涼無味の生活の描写があり、おまけにかわいがって飼っていた小鳥の死によって、この人の唯一の情緒生活のきずなの無残に断たれるという場面が一種の伏線となっているので、それでこそ後にポーラの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・その堪えがたき裏淋しさと退屈さをまぎらすせめてもの手段は、不可能なる反抗でもなく、憤怒怨嗟でもなく、ぐっとさばけて、諦めてしまって、そしてその平々凡々極まる無味単調なる生活のちょっとした処に、ちょっとした可笑味面白味を発見して、これを頓智的・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・しかしそれに関らず私は何となく乾燥無味な数学に一生を托する気にもなれなかった。自己の能力を疑いつつも、遂に哲学に定めてしまった。四高の学生時代というのは、私の生涯において最も愉快な時期であった。青年の客気に任せて豪放不羈、何の顧慮する所もな・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・ わたくしはこんなに手短に乾燥無味に書きます。これは少し気分が悪いからでございます。電信をお発し下すったなら、明後日午後二時から六時までの間にお待受けいたすことが出来ましょう。もうこれで何もかも申上げましたから、手紙はおしまいにいたしま・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・普通に嬉しと思う時嬉しと言わば俳句は無味になり了らん、まして嬉しさよと長く言わんはなおさらのことなり。嬉しさよといわねば感情を現わす能わざる時にのみ用いたる蕪村の句は、もとよりこの語を無造作に置きたるにあらず。さらに驚くべきは蕪村が一句の結・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・大河内氏は、日本の女子の天才の一つとしてそれを感歎し、それは改良されている機械の機構と、「その使いかたが単調無味であるように製作されてあるほど精密に加工されるから」「飽きることを知らない農村の女子が農業精神で」その精密加工に成功し「農村の子・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・近所の教会の連中と見え、子供がたかって意味も知らずに声を張りあげ無味乾燥な太鼓に追いまくられるようにしながら、 みィな救くゥわるゥ――と歩いている。留置場の横通りのところで暫くわざとのように太鼓をうっていたが次第に遠のき、今度はや・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・「この書を通読してまず感歎することは、宇宙の創造から一九三三年までの世界の歴史をかかる小冊子に記述しながら、決して無味乾燥な材料の羅列に終らせることなく、これを極めて興味ふかい物語に編みあげ、しかも、その中に烈々たる文化的精神を織りこん・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・引つづいて読者はひどく精密であるが全く無味乾燥なユロ男爵家の系図の中を引きまわされるのであるが、普通の読者は、その数千字を終り迄辛棒して結局は、最初の行にあった四字「ユロ男爵」だけを全体との進行の関係で記憶にとどめるような結果になる。 ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫