・・・創ったもの何もなく、ただこんな絵を描こうと思っただけで、貴方に認められようとし、実行しない自身に焦心していました。船橋から、帰る日、私への徹底的な絶望と思って私がかなしんだ、貴方の言葉は今、特に絶対必要なありがたい力をあたえてくれています。・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・喜怒愛憎の高潮に伴なう涙は理知や道徳などとは関係の薄い情緒的のものであるが、哀別離苦の焦心の涙にはよほど本能的なものがあって、純粋な肉体の苦痛によるものとかなりまで相通ずるものがありそうに思われる。 いずれにしても、笑う前と泣く前とでは・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・の慾望と焦心がトゥール生れの彼をもはっきり掴んだのであった。 バルザックは、熱中して金儲けのことを考えるようになった。貴族になるどころか、満足に自活も出来ない当時の現状は彼を苦しめた。どちらかといえばバルザックより遙に実際的であったベル・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫