・・・実に大浦の武士道を冥々の裡に照覧し給う神々のために擦られたのである。 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なん・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・ 亡父も照覧。「うちへかえりたいのです。」 柿一本の、生れ在所や、さだ九郎。 笑われて、笑われて、つよくなる。十一日。 無才、醜貌の確然たる自覚こそ、むっと図太い男を創る。たまもの也。十二・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・詐りは天も照覧あれ」と繊き手を抜け出でよと空高く挙げる。「罪は一つ。ランスロットに聞け。あかしはあれぞ」と鷹の眼を後ろに投ぐれば、並びたる十二人は悉く右の手を高く差し上げつつ、「神も知る、罪は逃れず」と口々にいう。 ギニヴィアは倒れ・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・そら、王様ご照覧。ええ今日、王様のご命令で双子の青星は旅に出ます。ね。いいだろう。」 二人は一緒に云いました。「うん。いい。そんなら行こう。」 そこで彗星がいやに真面目くさって云いました。「それじゃ早く俺のしっぽにつかまれ。・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・彼のちぢめたどた靴の先には、レーニンも照覧あれ! モスク文化象徴である石油コンロ、薬カン、人別手帖で買ったところの貴重なパンの塊、ソーセージ、――つつましき人生の全必需品がもち込まれて居るのだ。 この湯槽には、だが幸三十四度の温湯がたた・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
・・・『全くほんとの事なんであなた、神様もご照覧あれ。全くもって、全くもって、嘘なら命でも首でも。わたしはどこまでも言い張ります。』 市長はなおも言いたした、『お前はその手帳を拾った後で、まだ手帳から金がこぼれて落ちてはおらぬかとそこ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫