・・・あるいはまた、家道紊れて取締なく、親子妻妾相互いに無遠慮狼藉なるが如きものにても、その主人は必ず特に短気無法にして、家人に恐れられざるはなし。即ち事の要用に出でたるものにして、いやしくも家風に厳格を失うか、もしくは主人に短気無法の威力なきに・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・などをみると大名の君主とその家来との間にあった極端な形式主義を足場にしたのに対して割合に人間らしい常識を持っていた忠直卿がジリジリしてその腹立ちを当時の君主らしい乱暴狼藉に現わした。そして大名を辞めて殿様でなくなったらすっかりカラッとすんだ・・・ 宮本百合子 「“慰みの文学”」
・・・仲津で狼藉者を取り押さえて、五人扶持十五石の切米取りにせられた。本庄を名のったのもそのときからである。四月二十六日に切腹した。伊藤は奥納戸役を勤めた切米取りである。四月二十六日に切腹した。介錯は河喜多八助がした。右田は大伴家の浪人で、忠利に・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ここで狼藉を働かれると、国守は検校の責めを問われるのじゃ。また総本山東大寺に訴えたら、都からどのような御沙汰があろうも知れぬ。そこをよう思うてみて、早う引き取られたがよかろう。悪いことは言わぬ。お身たちのためじゃ」こう言って律師はしずかに戸・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・六郎が祖父は隠居所にありしが、馳出でて門のあきたるを見て、外なる狼藉者を入れじと、門を鎖さんとせしが、白刃振りて迫られ、勢敵しがたしとやおもいけん、また隠居所に入りぬ。六郎が母を殺しし人は、今もながらえたり。六郎が父殺しし人の、一瀬なりしこ・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫