・・・けれども、女囚の生活、獄中生活が女性に及ぼす精神的の影響等は余り一般に知られていない。例えば免囚保護という言葉に、はっきり女性の免囚も含有す、という意識があるか。 従来、女と云えば誰人かの娘、妻、姉妹、という附属的地位にあった。女性が刑・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・を発表した島木健作氏のそれにつづく獄中生活者を描いた作品は、従来のプロレタリア文学に欠けていた人間描写とインテリゲンツィアの良心を語る、目新しいものとして一般からよろこばれた。これらの作品の題材の特異性、特異性を活かすにふさわしい陰影の濃い・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・自分の人間的な善意が裏切られたことに苦しみつくして、とうとう獄中で自殺した。だが大泉は平気で生きている。こういう非人間的な行動を逆に共産主義者へのそしりとして、ハウスキーパー制度というものがあった、というようにいっている。 同志の間に愛・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
尾崎秀実氏が獄中から書かれた書簡集がまとめられることになった。それについて、短い文章を書くようにとの依頼をうけた。 尾崎氏とその家族のために、永年心をつくしていられる友人たちは、決して少くないのである。それを思うと、私・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・ 獄中におけるローザの手紙は、その中に吐露されている自然の鳥や花に対する優しい情緒や憧憬やに充ちている点で有名である。そのような環境の中にあって公然と書き得る手紙の内容は略きまったものであることは云えるのだが、私はあのように不屈であり、・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・幾人もの人が獄中、獄外で殺された。治安維持法が廃止された去年の秋、その法律の犠牲になった人々は、民衆の解放のための英雄として、新しく見なおされた。先頃上映されていた「命ある限り」という映画は通俗化されながらも、これまでひたかくされていたこれ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ 被告たちは、このような精神的苦悩のうちにあつい夏じゅうを獄中に過した。林弁護人は弁論中、彼らは「あくまで重要犯人であるとして被告人相互の連絡を防止するという意味で、窓には板をはり、わずかの硝子戸しかすきまがなく、ほとんど日のめをみるこ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・そして、獄中の繁治さんのためにも、その小説が印刷されるように努力したのではなかったろうか。 その短篇は、主題は働いて生きる女性の積極な面をとらえていても、表現は一般的な写実の範囲にあった。ところが、それから四五年したら、「大根の葉」「暦・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
・・・臼井六郎も今は獄を出でたり。獄中にて西教に傾きたりといえば、彼コルシカ人の「ワンデツタ」に似たる我邦復讐の事、いま奈何におもうらん。されど其母殺したりという人は、安き心もあらぬなるべし。きょうは女郎花、桔梗など折来たりて、再び瓶にさしぬ。・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・須磨子は後の夫に獄中で死なれてから、お糸、小太郎の二人の子を連れて安井家に帰った。歌子は母が亡くなってから七箇月目に、二十三歳であとを追って亡くなった。 お佐代さんはどういう女であったか。美しい肌に粗服をまとって、質素な仲平に仕えつつ一・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫