・・・ それは一方からの尽きない生成とともにゆっくり旋回していた。また一方では捲きあがって行った縁が絶えず青空のなかへ消え込むのだった。こうした雲の変化ほど見る人の心に言い知れぬ深い感情を喚び起こすものはない。その変化を見極めようとする眼はい・・・ 梶井基次郎 「蒼穹」
・・・特に美濃近江の国境の連山は、地形の影響で、上昇気流を助長し、雪雲の生成を助長するのであろう。 また伊吹山観測所で霧を観測した日数を調べてみると、四か年間の平均で、冬季三か月間につき七六、八日となっている。つまり冬じゅうの約八割五分は伊吹・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・やはり、音の生成機巧に共通なところがあるからであろう。すなわち、浜べで無数の砂利が相打ち相きしるように無数の蝗の羽根が轢音を発している、その集団的効果があのように聞こえるのではないかと思われる。そういえば丸鋸で材木をひく時にもこれに似た不規・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・情緒的活動が開始されると、今度は脳神経中枢のどこか前とはちがった部分のちがった活動がスタートを切って、今までとはまた少しちがった場所にちがった化学作用が起こり始め、そうしてまた前とはちがった化学物質が生成されたり、ちがったイオン濃度の分配が・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・もっともこの断層の生成、これに伴なう沈下や滑動の起こった時代は、おそらく非常に古い地質時代に属するもので、その時の歪が現在まで残っていようとは信ぜられない。しかしそのような著しい地殻の古きずが現在の歪に対して時々過敏になりうるであろうと想像・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・の問題として理論的にもかなりたびたび取り扱われたもので、工学上にもいろいろの応用のあるのはもちろんであるが、また一方では、平行山脈の生成の説明に適用されたり、また毛色の変わった例としては、生物の細胞組織が最初の空洞球状の原形からだんだんと皺・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 北米のような大陸で、ことに南北の気流の比較的自由な土地はこの現象の生成に都合が好さそうに思われる。いくら米国でもこの天象を禁止し排斥する事は出来ないので、その予報の手がかりを研究しているのである。 我邦におけるこれらの現象の記録は・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・空中電気というとわかったような顔をする人は多いがしかし雨滴の生成分裂によっていかに電気の分離蓄積が起こり、いかにして放電が起こるかは専門家にもまだよくはわからない。今年のグラスゴーの科学者の大会でシンプソンとウィルソンと二人の学者が・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・しかしたとえば液体の渦の生成や分布や相互作用については、やはり前述の割れ目などと共通な「固有値」の問題の伏在することが想像され、あるいはまたマトリッキスの概念の導入可能性も考えられる。 またかつて藤原博士が私に話されたように、古来の大家・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・という自己流の定義が正しいと仮定すると、日本における上述の気候学的地理学的条件は、まさにかくのごとき週期的変化の生成に最もふさわしいものだといってもたいした不合理な空想ではあるまいかと思うのである。 同じことはいろいろな他の気候的感覚に・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
出典:青空文庫