・・・ 生きなければならないばかりに栄蔵は、自分より幾代か前の見知らぬ人々の骨折の形見の田地を売り食いして居た。 働き盛りの年で居ながら、何もなし得ないで、やがては、見きりのついて居る田地をたよりに、はかない生をつづけて行かなければならな・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・もし知識人の苦悩といい、批判というのならば、帰る田舎や耕す田地は持たないで、終生知識人としての環境にあってその中でなにかの成長を遂げようとする努力の意図がとりあげられなければなるまい。駿介に還る田舎を設定しなければこの小説全篇が成り立たない・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・四 その田地――禰宜様宮田が実に感謝すべき御褒美として、海老屋から押しつけられた――は、小高い丘と丘との間に狭苦しく挾みこまれて、日当りの悪い全くの荒地というほか、どこにも富饒な稲の床となり得るらしい形勢さえも認められないほ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 祖母はいろいろと強い事を云う。 田地を取りあげるとか、返せなかった時にはどうするとか云うけれ共、菊太は只、哀願を続けるばっかりである。 私は、祖母の意地の悪い、菊太を眼下に見る様な様子を見ると菊太の子供等がこれを見た時の気持を・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・郡山が膨張して、附近の村々の若いものはそこの工場で働くようになったし、大戦のころ米価暴騰につられて田地を買い込んだ農民たちは忽ちその借金なしに追い立てられることとなり、村の生活へは明け暮ひろい流れで町の息吹きが動きはじめた。 やがて、そ・・・ 宮本百合子 「村の三代」
出典:青空文庫