・・・ 我さとの親の方に私して夫の方の親類を次にす可らず、正月節句などにも云々、是れは前にも申す通り表面の儀式には行わる可きなれども、人情の真面目に非ず。又夫の許さゞるには何方へも行く可らずとは何事ぞ。婦人の外出に付き家事の都合を夫に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・とか、「愛するピエエルよ」とか申すのでしょうか。どうもそんなのがちょうどよろしいかと存ぜられます。ですけど、頭からそう申す事は、余り不躾なようで出来かねます。だんだん書いてまいりますうちに、そんな事も申されるようになりますかも知れません。・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・それを今打明けて申すのは、貴方に苦しい思いをさせようと思って申すのではございません。それからわたしは貴方に最後の御返事を致そうかと存じました。その手紙には非道く悲しい事も書かず、恨がましい事も書かず、つい貴方のお心にわたしの心がよう分って、・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・半ばおろしたる蔀の上より覗けば四、五人の男女炉を囲みて余念なく玉蜀黍の実をもぎいしが夫婦と思しき二人互にささやきあいたる後こなたに向いて旅の人はいり給え一夜のお宿はかし申すべけれども参らすべきものとてはなしという。そは覚期の前なり。喰い残り・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・そちは何と申す」「へいへい。私は六平と申します」「六平とな。そちは金貸しを業と致しおるな」「へいへい。御意の通りでございます。手元の金子は、すべて、只今ご用立致しております」「いやいや、拙者が借りようと申すのではない。どうじ・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・ 女の子だからと云って、女のくせに、と禁止ばかり多い育てかたをする時代でないことは、もう申すまでもないことです。 人間を育てる根本の精神では、男の子も女の子も、同じであってよいと思います。 女の子は、愛嬌がないときらわれる、・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・「日出新聞社のものですが、一寸電話口へお出下さいと申すことです。」 木村が電話口に出た。「もしもし。木村ですが、なんの御用ですか。」「木村先生ですか。お呼立て申して済みません。あの応募脚本ですが、いつ頃御覧済になりましょうか・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ツォウォツキイは工場で「こちらで働いていました後家のツァウォツキイと申すものは、ただ今どこに住まっていますでしょうか」と問うた。 住まいは分かった。ツァウォツキイはまた歩き出した。 ユリアは労働者の立てて貰う小家の一つに住んでいる。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「誰やらん見知らぬ武士が、ただ一人従者をもつれず、この家に申すことあるとて来ておじゃる。いかに呼び入れ候うか」「武士とや。打揃は」「道服に一腰ざし。むくつけい暴男で……戦争を経つろう疵を負うて……」「聞くも忌まわしい。この最・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・私はジョセフィヌさまへお告げ申すでございましょう」 緞帳の間から逞しい一本の手が延びると、床の上にはみ出ていた枕を中へ引き摺り込んだ。「陛下、今宵は静にお休みなされませ。陛下はお狂いなされたのでございます」 ペルシャの鹿の模様は・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫