・・・じつにかの日本のすべての女子が、明治新社会の形成をまったく男子の手に委ねた結果として、過去四十年の間一に男子の奴隷として規定、訓練され、しかもそれに満足――すくなくともそれに抗弁する理由を知らずにいるごとく、我々青年もまた同じ理由によって、・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・そして、有妻の男子が他の女と通ずる事を罪悪とし、背倫の行為とし、唾棄すべき事として秋毫寛すなき従来の道徳を、無理であり、苛酷であり、自然に背くものと感じ、本来男女の関係は全く自由なものであるという原始的事実に論拠して、従来の道徳に何処までも・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・ 十五 小宮山は切歯をなして、我赤樫を割って八角に削りなし、鉄の輪十六を嵌めたる棒を携え、彦四郎定宗の刀を帯びず、三池の伝太光世が差添を前半に手挟まずといえども、男子だ、しかも江戸ッ児だ、一旦請合った女をむざむざ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・君は先年長男子を失うたときには、ほとんど狂せんばかりに悲嘆したことを僕は知っている。それにもかかわらず一度異境に旅寝しては意外に平気で遊んでいる。さらばといって、君に熱烈なある野心があるとも思えない。ときどきの消息に、帰国ののちは山中に閑居・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・多くは一向其趣味を解せぬ所から、能くも考えずに頭から茶の湯などいうことは、堂々たる男子のすることでないかの如くに考えているらしい、歴史上の話や、茶器の類などを見せられても、今日の社会問題と関係なきものの如くに思って居る、欧米あたりから持・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・それでは、社会に活動しようとする男子の心を十分に占領するだけの手段または奮発がないではないか? 僕は僕の妻を半身不随の動物としか思えないのだ。いッそ、吉弥を妾にして、女優問題などは断念してしまおうかと思って見た。 そうだ、そうだ。今の僕・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 政治や外交や二葉亭がいわゆる男子畢世の業とするに足ると自ら信じた仕事でも結局がやはり安住していられなくなるのは北京の前轍に徴しても明かである。最後のペテルスブルグ生活は到着早々病臥して碌々見物もしなかったらしいが、仮に健康でユルユル観・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・その生涯をことごとく述べることは今ここではできませぬが、この女史が自分の女生徒に遺言した言葉はわれわれのなかの婦女を励まさねばならぬ、また男子をも励まさねばならぬものである。すなわち私はその女の生涯をたびたび考えてみますに、実に日本の武士の・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・幸に、男子にとって、厄年である四十三も、無事に過ぎたことを祝福します。――十三年十二月―― 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・ 真吉は、日本男子というものは、泣くものでないと、学校の先生からきいていたので我慢をして、「いってまいります。」と、頭をさげて、家を出ました。そして、後をふりかえり、ふりかえり、二里の道を歩いて、町へ出て、そこから汽車に乗ったのであ・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
出典:青空文庫