・・・ あまり当てにならない留守番だから、雨戸を引きよせて親子は出て行った。文公は留守居と言われたのですぐ起きていたいと思ったが、ころがっているのがつまり楽なので、十時ごろまで目だけさめて起き上がろうともしなかったが、腹がへったので、苦しいな・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・「ここへ留守番に傭われているんでやすよ。一日、十円なんですからね。」 下卑た笑いをやっている。「そんじゃ、支那人は、危いから逃げだしてしまったんだな?」「いいえ。」「じゃ、どうしたんだ!」「扉は閉めて、皆、奥に蹲んで・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・しず子もおとなしくお留守番をしています、とも書かれていました。どうしても、ここで一篇、小説を書かなければ、家へも面目なくて帰れない気持です。毎日こんな、だらしない事では、どう仕様もございません。 どうやら今夜の手紙も、しどろもどろの手紙・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ウメちゃんが留守番をしていて、お客さまにお宿をさせてやって下さい。あの方たちには、ゆっくりやすむお家が無いのですから。そうしてね、私の病気の事は知らせないで。」 そうおっしゃって、優しく微笑みました。 お客たちの来ないうちにと、私は・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・わたしは、その留守番みたいなもので。」「田舎は、どこです。」「埼玉のほうだとか言っていました。」「そう。」 彼等のあわただしい移住は、それは何も僕たちに関係した事では無いかも知れないけれども、しかし、君のその「ノオ」の手紙が・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・私は留守番をして珍しく静かな階下の居室で仕事をしていたが、いつもとはちがって鳴き立てる三毛の声が耳についた。食物をねだる時や、外から帰って来る主人を見かけてなくのとは少し様子がちがっていた。そしてなんとなく不安で落ち着き得ないといったような・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・せっかく草花の芽が出るころになると、たぶん村の子供らであろうが、留守番も何もない屋敷内へ自由にやって来て、一つ残らずむしり取り、引っこ抜いてしまう。いろいろの球根などは取るのにも取りやすいわけだが、小さな芽ばえでもたんねんに抜いてそこらに捨・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・が、それにかかわらず、お絹も道太が時々気をぬきに来るように、もし手ごろな家を一軒かりてでもおくなら、留守番をしていてもいいような話もあったので、それも頭脳に描いていた。八 お絹がだいぶ前から苦にしていた大掃除の日が来た。頼ん・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・第二には、両親は逗子とか箱根とかへ家中のものを連れて行くけれど、自分はその頃から文学とか音楽とかとにかく中学生の身としては監督者の眼を忍ばねばならぬ不正の娯楽に耽りたい必要から、留守番という体のいい名義の下に自ら辞退して夏三月をば両親の眼か・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・或る時は呼んで按摩をさせた。或る時は留守番をさせ、或る時は台処の土間で豆をむかせた。何かさせれば、大抵その晩は泊めてやった。勿論食事もさせる。場合によっては金もやったが、沢や婆は、ちゃんと金の貰えるようなことは何一つ出来なかった。村では、子・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
出典:青空文庫