・・・私も一緒に行かなければならないから、留守番が入用るでしょう? あの人じゃ、独りで置けないわ。ね。だから、れんを又呼んで、代って貰うことにするの」「ふうむ」 彼は、脚を組みかえ、煙草をつけた。「其那ことを云わなくたっていいじゃあな・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・由紀子という人が、二人の子供を前とうしろにかかえて外出したということは、その一家に、留守番をしたり子供を見たりする人手の無いことを語っているのである。 警告を発するならば、先ず運輸省の不手際に対して発せらるべきである。更には、存在の無意・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・お留守番の稽古で泰子をねかしつけます。自分が頭が苦しかったから、この小さい頭のアンバランスも察しられてなかなかいいところをなでるらしくてトロトロよ。そして私は子供達がどっさり居る夢をみました。赤ん坊に乳をのませる間、母さんが二人を置いては眠・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・九月六日に聞いた話 ◎朝、鎌倉の倉知の様子を見に行った小港の兄、自転車にのって行かえり、貞叔母上、季夫、座敷の梁の下じきになって即死し、咲枝同じ梁のはずれで圧せられ、屋根から手を出し、叫んだのを、留守番の男が見つけききつけかけつけて出そ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ まだ若い女をたった一人留守番にして自分一人旅に出ると云う事は千世子には何となし仕にくい事だった。女の淋しさも思い、また、自分の持って居るあらいざらいのものを見張って居てもらうにはあんまりかよわいものの様でも・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・「貴方は遊びに出かける方だから好い様なものの、私は一人ぼっちでお留守番だ! あんまりいそいそして居るのが不愉快な様でなげやりな口調で千世子はそう云ってかたい笑方をした。 帰って来てから相談する事があるとか考えてもらいたい・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・書生がいるとき、子供によくわからないけれども何かを意味するいろいろの話が、子供のいるときでもされた。留守番をするながい時間、子供はそういう荒っぽい空気のなかにいる。よごされもせず、わいせつな話の意味を知らず、すがすがしく笑いながら、裏へ出て・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
・・・独りっきりで淋しい彼女は、留守番を実家の書生に頼んで、此方へ寝泊りして居るのである。 処々に教鞭を取って、平日に纏った休日を持たない茂樹は、試験が済んで、新学期迄数日の暇が出来ると、早速、郷里に父親を訪問する事を思い立った。 老人は・・・ 宮本百合子 「われらの家」
出典:青空文庫