・・・ ファッシズムへの抵抗、平和擁護の一つをとってみても日本の人民的民主主義の全局面が、現在どんなに国際的条件にかかわりあって来ているかがよくわかる。 異国趣味を通じて、より進んだと信じられている文化形態を通じて、民族の人民的文化の質が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・反復が芸術的に素朴な手法でされているものだから、希望される最も低い意味での風景的異国趣味さえ損われてしまっている。登場する人物は少数のイタリー指揮官と、銃を与えられて、整列すること、敬礼すること、同じ黒い皮膚を持った沙丘の彼方の土民を射撃す・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・の監督に当ったシドニー・フランクリンは、ムニやライナーを東洋人として演じさせるためにこまかい注意を払っているのであるが、私たち東洋の眼で見ていると、折々パッと異国の花が開いたようにライナーがほかならぬアメリカの最も尖端的な表情で立ち現れる瞬・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・ 学生や若い勤人中の所謂文学好きは、構成派の詩人たちの科学性に対する異国趣味にひきつけられた。さもなければ未来派系統の、芸術左翼戦線の、作家詩人の言葉の手品を興がった。そして、自分達も、文学研究会では、やたらに文学団体の各名称について通・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・広々とした七月の空、数間彼方の草原に岬のように突出ている断崖、すべて明快で、呑気な赤帽の存在とともに、異国的風趣さえあった。 鎌倉は、海岸を離れると、山がちなところだ。私にとって鎌倉といえば、海岸より寧ろ幾重にも重なって続く山々――・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・湯川夫人の日本振袖の姿も、ノーベル賞授賞の式場に異国情緒を添えた。 それぞれの国の民族が婦人や子供、としより連まで固有の服装に身をかざって、その土地伝統の祭りを祝うような日の光景は、はた目にもおもしろく愉しいものだ。けれども、その美・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・それらが、わたくしたちに異国的な臭いを嗅がすことは嗅がすけれど、それだからといって、わたしたちの生活が一歩でも美しさに近寄れるでしょうか。 ところがある雑誌には一つの注目すべき小さい数行がありました。それはアメリカの若い大学生や勤労婦人・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ バックの中国についての感情は非常に深い。異国趣味なところは微塵もない。全く、彼女はアメリカよりもよく中国を知っているのである。従って皮相的な意味での中国は中国という考えは少しもない。中国のいいところ、ヨーロッパのよいところ、それ等をよ・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・父が遠方の異国の京城へ行くことになったからである。小学の一年で三度も学校を変えさせられた私は、今度はもとの伯母の家からではなく、祖父の大きな肩の見えた家から学校へ通った。 私はこの家で農家の生活というものを初めて知ったのだった。それは私・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・ついに新王は、さまざまの冒険の後に、理想の王女を遠い異国から連れてくる。この美しい妃が女主人公なのである。そこでこの妃のその後の運命を語る段になると、話は俄然『熊野の本地』に一致してくる。父王の千人の妃たちの憎悪と迫害がこの新王の美しい妃に・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫