・・・社会問題攻究論者などは、口を開けば官吏の腐敗、上流の腐敗、紳士紳商の下劣、男女学生の堕落を痛罵するも、是が救済策に就ては未だ嘗って要領を得た提案がない、彼等一般が腐敗しつつあるは事実である、併しそれらを救済せんとならば、彼等がどうして相・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・尤も、君が痛罵したような態度を、平生僕がとっているとすれば、僕は反省しなければならぬし、自分の生活に就ても考えなければならない、事実考えてもいる。君がほんとの芸術家なら、ああいう依頼の手紙を書く者と、貰う者と、どちらがわびしい気持ちで生きて・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・女房がヒステリイみたいに口やかましく、君の働きのなさを痛罵するものだから、君も大きいこと言って、何か真顔で、きょうすぐお金がはいるあてがあるなんて、まっかな嘘ついて女房を喜ばせ、女房にうんと優しくされて家を出て、さて、なんにも、あてがない。・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・これは知識ある階級の人すら家具及び家内装飾等の日常芸術に対して、一向に無頓着である事を痛罵したものである。わが日本の社会においてもまた同様。書画骨董と称する古美術品の優秀清雅と、それを愛好するとか称する現代紳士富豪の思想及生活とを比較すれば・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ しかもこの奇妙な本の中で、フロレンス・ナイチンゲールは時々宗教の議論も労働者の問題も忘れて、当時の上流婦人の地位や家庭生活の虚偽、結婚の欺瞞と因習の無意味さとを痛罵している。彼女のはげしい筆端が深い憤りに震えながら、裕福な家庭の未婚婦・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫