・・・あの事件に関して暴力をきびしく非難したのが発言者たちの真実の声であったのなら、最もはっきり暴力の罪悪性を断言した人ほど、こんにちでは遺族の名誉とヒューマニティーのために真実の暴力がどこにあるかということについて、説明者となる責任があるだろう・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・しかし大臣となって、いかな魔法のためか、その椅子はぐらつきつつ顛覆しないときまってみると、なかなか人間をはなれた発言をする。物価庁が、原稿料を基準に、という意見を発表するとき、湛山の役所風なヴァリエーションを感ずる。表通りは固めて、裏はふつ・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・ 日本の講和問題というと、それは政府の仕事で、私たち女などが発言する場所でないように思う習慣があるけれども、この恐ろしい悲しい実話一つを考えてみても、日本の婦人こそ平和について最も発言権の多い人々であることがわかります。 このあいだ・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
去年の暮、福田恆存は、一九四九年を通観して、「知識人の敗北」の年と概括をした。これは、評論家としての氏にとって、きわめて意味のふかい一つの刻みめを印した発言となった。なぜならば、一九四九年の日本の現実は、混乱しながらもそこ・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
みなさま。 一九五〇年ということしの国際婦人デーこそ、世界のあらゆる国々で、平和を愛し、民族の独立をねがう婦人たちが、心からの願いに立って発言し、行動する日であると思います。 これまで婦人デーというと、社会主義の思・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・一九四五年八月十五日から後の、いく年間か文学上に発言のなかった今日出海によって、実名小説流行のいとぐちが開かれたことも、偶然ではない。一九五〇年度の文学現象のこのような特性は、それ自身として決して孤立した社会現象ではないのである。 その・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ したがって、出版恐慌を理由として、これらの戦後派の先輩たちがジャーナリズムの上にうけた不利――すなわち、社会的文学的発言の範囲の縮小の本質は、とりもなおさず、理性に立つ現実探求の精神の主張、国の内外のファシズムと戦争挑発に対する抗議と・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ そして、こういう現象は、日本の封建的だった社会が、婦人の発言をどう扱って来ていたか、ということの反映であるという見解も、家では婦人自身に理解され、実感としてそこからの解放がねがわれている。 だけれども、この三年間に日本の歴史が、び・・・ 宮本百合子 「今年のことば」
・・・けれども、その美しさにしろたのしさにしろ、その民族或いはその人々が実際には半ば奴隷の立場に甘んじていて、自分の民族の独立や世界の平和のために良心的な何の発言も行動もなし得ないほど無気力であったなら、その固有の服装が優美であり、みものになると・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・それ以上の発言は栖方の生命にかかわることである。青年は危険の限界を知らぬものだ。栖方も梶の知らぬところで、その限界を踏みぬいている様子があったが、注意するには早や遅すぎる疑いも梶には起った。「倒れたのが発想か。倒れなかったら、何にもない・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫