・・・思イマス近ゴロノ私ノ道楽ハ、何デモオモイ浮ンダコトヲ書ツケテオイテ、ソレガドレダケノ月日ヲ経タラ、フルクナルカト申スコトヲ試験シテオリマス、何ヲオ隠シ申シマショウ私モ華族ノ二男ニハ生レマセヌノデ、白米氏ニ敗ラルル点ニオイテハ御同様デス・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・それには驚かなかったが、バラックの中で白米のカレーライスを売っているのには驚いた。日本へ帰れば白米なぞ食べられぬと諦めていたし、日本人はみな藷ばかり食べていると聴いて帰ったのに、バラックで白米の飯を売っているとはまるで嘘のようであった。値を・・・ 織田作之助 「世相」
・・・「そうだろう。」何がそうだろうだか、自分にもわからなかった。ただ、ひどく気取っているのである。また、しばらく会話が、とぎれる。私は、ごはんを四杯たべた。こんなに、たくさんたべた事は無い。「白米は、おいしいね。」白米なのである。私は少・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・けれどこの三箇の釜はとうていこの多数の兵士に夕飯を分配することができぬので、その大部分は白米を飯盒にもらって、各自に飯を作るべく野に散った。やがて野のところどころに高粱の火が幾つとなく燃された。 家屋の彼方では、徹夜して戦場に送るべき弾・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・九月三日 曇後雨 朝九時頃から長男を板橋へやり、三代吉を頼んで白米、野菜、塩などを送らせるようにする。自分は大学へ出かけた。追分の通りの片側を田舎へ避難する人が引切りなしに通った。反対の側はまだ避難していた人が帰って来るのや、・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・僕なぞは学資に窮した時、一日に白米二合で間に合せた事がある」「痩せたろう」と碌さんが気の毒な事を聞く。「そんなに痩せもしなかったがただ虱が湧いたには困った。――君、虱が湧いた事があるかい」「僕はないよ。身分が違わあ」「まあ経・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・その人々は、この一望果てない青田を見て、そこに白く光った白米の粒々を想像し、価のつり上りを想像し、満足を感じていたかもしれない。けれども、私は、行けども行けどもつきない稲田の間を駛りつつ、いうにいえない心もちがした。これほどの稲、これほどの・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・ズックの袋に入れて札をつけた白米が店の奥に山とつまれた。馬力で米俵が運ばれて来たりした。東京市内だけでも一日に何軒とかの割合で米屋が倒れて行く。そういう話がある折であったから通りすがりに見るこの米屋の大活況は何となし感じに来るものがあるので・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・「久栄で 白米一俵とりにきよった たき出しでもするじゃあろうて」 汽車/Kisha いんでてか? 麦の穂先だけのぞいている、 こっちの川を越すと店へ漬る、「水ちゅうもんは早うひくのう あんた」 大雨があがる、 晴天 ・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
出典:青空文庫