・・・全国に多くの支店を擁しながら、なおかつ直営店の経営に乗り出すほど、事業は盛大になって来ていた――と。事実、支店の数も何もむやみにつぶしたわけでない証拠に、第一期の募集当時にくらべると、三倍にも増えていたのだ。無論、そのような盛大を来たすには・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・種吉がかねがね駕籠かき人足に雇われていた葬儀屋で、身内のものだとて無料で葬儀万端を引き受けてくれて、かなり盛大に葬式が出来た。おまけにお辰がいつの間にはいっていたのか、こっそり郵便局の簡易養老保険に一円掛けではいっていたので五百円の保険料が・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・武家の尊崇によって愛宕は最も盛大な時であったろうが、こういう訳で生れた政元は、生れぬさきより恐ろしいものと因縁があったのである。 政元は幼時からこの訳で愛宕を尊崇した。最も愛宕尊崇は一体の世の風であったろうが、自分の特別因縁で特別尊崇を・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・きょうは、ひとつ、盛大にやろうじゃないか。このたびの教員大異動に於いて、君も僕も、クビにならず、まず以て無事であった。これを祝する意味に於いて、だ、(一升瓶とさかなを両手にぶらさげ部屋にはいり、部屋の上手の襖おうい、おうい。節子! (と母屋・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・のかけごえのみ盛大の、里見、島崎などの姓名によりて代表せられる老作家たちの剣術先生的硬直を避けた。キリストの卑屈を得たく修業した。 聖書一巻によりて、日本の文学史は、かつてなき程の鮮明さをもて、はっきりと二分されている。マタイ伝二十・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・一時の盛大はやがて風雲の気を醸し、遂に今日の衰亡を招ぐに終った。われわれが再びバナナやパインアップルを貪り食うことのできるのはいつの日であろう。この次の時代をつくるわれわれの子孫といえども、果してよく前の世のわれわれのように廉価を以て山海の・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・この国の文学美術がいかに盛大で、その盛大な文学美術がいかに国民の品性に感化を及ぼしつつあるか、この国の物質的開化がどのくらい進歩してその進歩の裏面にはいかなる潮流が横わりつつあるか、英国には武士という語はないが紳士と〔いう〕言があって、その・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・されば人民の政は、ただ多端なるのみに非ず、また盛大有力なりといわざるべからず。 右の次第をもって考うれば、人民の世界に事務なきを患るに足らず。実はその繁多にしてこれに従事するの智力に乏しきこそ患うべけれ。これを勤めて怠らざれば、その事務・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・然るに今この家においては斯る盛大なる国教もその力を伸ぶること能わずして、戸外の公務なるものに逢えば忽ちその鋒を挫き、質素倹約も顧みるに遑あらず、飲酒不養生も論ずるに余地なく、一家内の安全は挙げてこれを公務に捧げ、遂には人間最大一の心得たる真・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・その式の盛大なこと酒もりの立派なこととても書くのも大へんです。 とにかく式がすんで、向うの方はみな引きあげて行きました。そのとき丁度雲のみねが一番かがやいて居りました。「さあ新婚旅行だ。」とベン蛙がいいました。「僕たちはじきそこ・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
出典:青空文庫