・・・ 直線いほ及びいへは無限に延長せられたるものとし直角ほいへの内は無限大の競技場たるべし。但し実際は本基にて打者の打ちたる球の達する処すなわち限界となる。いろはには正方形にして十五間四方なり。勝負は小勝負九度を重ねて完結する者にして小・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・この時には両肩と両腕とでUの字になることが要領じゃ、徒にここが直角になることは血液循環の上からも又樹液運行の上からも必要としない。この形になることが要領じゃ。わかったか。六番」兵卒六「わかりました。カンデラーブル、U字形であります。」・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・その現実に対する角度は、芭蕉のように身を捨てて天地の間に感覚を研ぎすました芸術家の生涯にある鋭い直角的なものではなく、謂わば芭蕉を味うその境地を自ら味うとでも云うべき、二重性、並行性があり、それは、藤村の文章の独特な持ち味である一種の思い入・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ そこへ私は茶箪笥をおき、長火鉢をおき、長火鉢と直角にチャブ台をひかえて、上で仕事しないときは、そこに構えているわけです。八畳からすぐ台所だというのが私どもの暮しかたには大変いい工合なのですが、生憎井戸でね。朝まだ眠いのに家でガッチャンガッ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ そこに或る開き、殆ど直角の開きが存在するということを視るだけでは不足と思う。二つの運動の間で揉まれひしゃげたのは外ならぬ文学であり、自分との真の統一で作品を生むことで動いて行こうとする作家の、年齢や経験にかかわらない歴史的な苦悩の原因・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・女の児の入口は、左手の、受付と書いてはあるがいつも閉っている小さいガラス戸の横についていて、そこは先生の入口と直角になっていた。先生の入口から入ったところに、長い幅ひろい机をおいた裁縫室があって、窓の下にオルガンがあり、壁に音階表がかけもの・・・ 宮本百合子 「藤棚」
・・・足一本でいつまでも立っていて、も一つの足を直角に伸ばしていられる位、丈夫なのです。丁度地に根を深く卸している木のようなのですね。肩と腰の濶い地中海の type とも違う。腰ばかり濶くて、肩の狭い北ヨオロッパのチイプとも違う。強さの美ですね。・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫