・・・たとえば熔融石英のフィルムの面に還元された銀を、そのまま石英に焼き付けてしまうような方法がありはしないかという気がする。とにかく、なんらかの方法でこの保存ができたとして、そうして数十世紀後のわれらの子孫が今のわれわれの幽霊の行列をながめるで・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
これが今日のおしまいだろう、と云いながら斉田は青じろい薄明の流れはじめた県道に立って崖に露出した石英斑岩から一かけの標本をとって新聞紙に包んだ。 富沢は地図のその点に橙を塗って番号を書きながら読んだ。斉田はそれを包みの・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・間もなく私はまっ白な石英の砂とその向うに音なく湛えるほんとうの水とを見ました。 砂がきしきし鳴りました。私はそれを一つまみとって空の微光にしらべました。すきとおる複六方錐の粒だったのです。(石英安山岩か流紋岩 私はつぶやくように・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・〔この山は流紋凝灰岩でできています。石英粗面岩の凝灰岩、大へん地味が悪いのです。赤松とちいさな雑木しか生えていないでしょう。ところがそのへん、麓の緩い傾斜のところには青い立派な闊葉樹が一杯生えているでしょう。あすこは古い沖積扇です。運ば・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ つめくさの花はちょうどその反対に明るく、まるで本当の石英ランプでできているようでした。 そしてよく見ますと、この前の晩みんなで云ったように、一々のあかしは小さな白い蛾のかたちのあかしから出来て、それが実に立派にかがやいて居りました・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫