・・・ 陳は麦藁帽の庇へ手をやると、吉井が鳥打帽を脱ぐのには眼もかけず、砂利を敷いた構外へ大股に歩み出した。その容子が余り無遠慮すぎたせいか、吉井は陳の後姿を見送ったなり、ちょいと両肩を聳やかせた。が、すぐまた気にも止めないように、軽快な口笛・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・―― 夢の中の僕は暑苦しい町をSと一しょに歩いていた。砂利を敷いた歩道の幅はやっと一間か九尺しかなかった。それへまたどの家も同じようにカアキイ色の日除けを張り出していた。「君が死ぬとは思わなかった。」 Sは扇を使いながら、こう僕・・・ 芥川竜之介 「死後」
・・・坊ちゃんも、――坊ちゃんは小径の砂利を拾うと、力一ぱい白へ投げつけました。「畜生! まだ愚図愚図しているな。これでもか? これでもか?」砂利は続けさまに飛んで来ました。中には白の耳のつけ根へ、血の滲むくらい当ったのもあります。白はとうと・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・ 報知を聞くと斉しく、女は顔の色が変って目が窪んだ、それなりけり。砂利へ寝かされるような蒲団に倒れて、乳房の下に骨が見える煩い方。 肺病のある上へ、驚いたがきっかけとなって心臓を痛めたと、医者が匙を投げてから内証は証文を巻いた、但し・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 意気な小家に流連の朝の手水にも、砂利を含んで、じりりとする。 羽目も天井も乾いて燥いで、煤の引火奴に礫が飛ぶと、そのままチリチリと火の粉になって燃出しそうな物騒さ。下町、山の手、昼夜の火沙汰で、時の鐘ほどジャンジャンと打つける、そ・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・いや、はあ、こげえな時、米が砂利になるではねえか。(眉毛に唾しつつ俵を探りて米を噛まず無事だ。――弘法様のお庇だんべい。ああ気味の悪い――いずれ魔ものだ、ああ恐怖え。――廻る――第二場場面。――一方やや高き丘、花菜の・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・れた惨めな気持にされて帰らねばならぬのだ―― 彼は歯のすっかりすり減った日和を履いて、終点で電車を下りて、午下りの暑い盛りをだら/\汗を流しながら、Kの下宿の前庭の高い松の樹を見あげるようにして、砂利を敷いた坂路を、ひょろ高い屈った身体・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 柳の間をもれる日の光が金色の線を水の中に射て、澄み渡った水底の小砂利が銀のように碧玉のように沈んでいる。 少年はかしこここの柳の株に陣取って釣っていたが、今来た少年の方を振り向いて一人の十二、三の少年が『檜山! これを見ろ!』・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・ お政は痛ましく助は可愛く、父上は恋しく、懐かしく、母と妹は悪くもあり、痛ましくもあり、子供の時など思い起しては恋しくもあり、突然寄附金の事を思いだしては心配で堪らず、運動場に敷く小砂利のことまで考えだし、頭はぐらぐらして気は遠くなり、・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・と渋い声、砂利声、がさつ声、尖り声、いろいろの声で巻き立って頼み立てた。そして人々の頭は木沢の答のあるまでは上げられなかった。丹下はむずむずしきった。無論遊佐の見じろぎの様子一ツで立上るつもりである。「遊佐殿も方々も御手あげられて下・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
出典:青空文庫