・・・ ところが、四五日たったある朝の新聞を見ると、ズルチンや紫蘇糖は劇薬がはいっているので、赤血球を破壊し、脳に悪影響がある、闇市場で売っている甘い物には注意せよという大阪府の衛生課の談話がのっていた。 私は「千日堂」はどうするだろうか・・・ 織田作之助 「神経」
・・・であるから少女の死は僕に取ての大打撃、殆ど総ての希望は破壊し去ったことは先程申上げた通りです、もし例の返魂香とかいう価物があるなら僕は二三百斤買い入れたい。どうか少女を今一度僕の手に返したい。僕の一念ここに至ると身も世もあられぬ思がします。・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・離れ難い愛着を感じる愛欲の男女がこの上の結合が相互の運命を破壊しつくすことが見通されるとき、その絆を断固として断たねばならないことは少なくない。たいていの妻子ある男性との結合は女性にとって、それが素人の娘であるにせよ、あるいはいわゆる囲い者・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・兵卒達は、パルチザンの出没や、鉄橋の破壊や、駐屯部隊の移動など、次から次へその注意を奪われて、老人のことは、間もなく忘れてしまった。 丘の病院からは、谷間の白樺と、小山になった穴のあとが眺められた。小川が静かに流れていた。栗島は、時々、・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・形成されたものは、かならず破壊されねばならぬ。成長する者は、かならず衰亡せねばならぬ。厳密にいえば、万物すべてうまれいでたる刹那より、すでに死につつあるのである。 これは、太陽の運命である。地球およびすべての遊星の運命である。まして地球・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・汽車は黒い煙をところどころに残し、旧い駅路の破壊し尽くされた跡のような鉄道の線路に添うて、その町はずれをも離れた。 おげんはがっかりと窓際に腰掛けた。彼女は六十の歳になって浮浪を始めたような自己の姿を胸に描かずにはいられなかった。しかし・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・になって、「バスチーユのね、牢獄を攻撃してね、民衆がね、あちらからもこちらからも立ち上って、それ以来、フランスの、春こうろうの花の宴が永遠に、永遠にだよ、永遠に失われる事になったのだけどね、でも、破壊しなければいけなかったんだ、永遠に新・・・ 太宰治 「おさん」
・・・そればかりならまだいいが、半ば覚めてまだ覚め切らない電車の美しい影が、その侘しい黄いろい塵埃の間におぼつかなく見えて、それがなんだかこう自分の唯一の楽しみを破壊してしまうように思われるので、いよいよつらい。 編集長がまた皮肉な男で、人を・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・わたくしの生涯を破壊したのです。あいつが最初電車から飛び下りて、わたくしを追いかけて、あの包みを渡しさえしなかったら。」「しかし誰でもあの男の場合に出合ったら、あの男と同じ行為に出でたでしょう。どうも外に為様はないじゃありませんか。一体・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・こうした工事が天然の風致を破壊するといって慨嘆する人もあるようであるが自分などは必ずしもそうとばかりは思わない。深山幽谷の中に置かれた発電所は、われわれの眼にはやはりその環境にぴったりはまってザハリッヒな美しさを見せている。例えば悪趣味で人・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
出典:青空文庫