・・・そこで私は、もしかしたらこれは、長髪の生徒の中には社会主義の思想を抱いている者が多いから、丸刈りを強制したのかも知れないという珍妙な想像をして、ひそかに吹きだした。しかし、私は髪こそ長かったが、社会主義の思想を抱く生徒ではなかった。 私・・・ 織田作之助 「髪」
・・・そんな人間の存在を助けているということは、社会生活という上から見て、正しく不道徳な行為であらねばならぬ」斯ういうのが彼等の一致した意見なのであった。「一体貧乏ということは、決して不道徳なものではない。好い意味の貧乏というものは、却て他人・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・歩きながら大槻は社会主義の運動やそれに携わっている若い人達のことを行一に話した。「もう美しい夕焼も秋まで見えなくなるな。よく見とかなくちゃ。――僕はこの頃今時分になると情けなくなるんだ。空が奇麗だろう。それにこっちの気持が弾まないと来て・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・ 親とか子とか兄弟とか、朋友とか社会とか、人の周囲には人の心を動かすものが出来ている。まぎらす者が出来ている。もしこれ等が皆な消え失せて山上に樹っている一本松のように、ただ一人、無人島の荒磯に住んでいたらどうだろう。風は急に雨は暗く海は・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 人間は社会生活をして生きているから、夫婦の生活をささえ子どもを養、教育していくことは生活の「たたかい」を意味する。この闘いに協同戦線を張って助け合うことが夫婦愛を現実に活かす大きな機会でなくてはならぬ。たのみ合うという夫婦愛の感じは主・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 対岸には、搾取のない生産と、新しい社会主義社会の建設と、労働者が、自分たちのための労働を、行いうる地球上たった一つのプロレタリアートの国があった。赤い布で髪をしばった若い女が、男のような活溌な足どりで歩いている。ポチカレオへ赤い貨車が・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ 骨董いじりは実にオツである、イキである、おもしろいに違いない、高尚に違いない、そして有意義に違いない、そして場合によっては個人のため社会のためになる事もあるに違いない。自分なぞも資産家でさえあればきっとすばらしい贋物や贋筆を買込で大ニ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・動物の群集にもあれ、人間の社会にもあれ、この二者のつねに矛盾・衝突すべき事情のもとにあるものは滅亡し、一致・合同しえたるものは繁栄していくのである。 そして、この一致・合同は、つねに自己保存が種保存の基礎であり、準備であることによってお・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・すくなくも社会の為に尽そうという熱い烈しい希望を抱いている。しかしながら、彼は一つも手を着けていなかった。 翌々日、相川は例の会社から家の方へ帰ろうとして、復たこの濠端を通った。日頃「腰弁街道」と名を付けたところへ出ると、方々の官省もひ・・・ 島崎藤村 「並木」
所謂社会主義の世の中になるのは、それは当り前の事と思わなければならぬ。民主々義とは云っても、それは社会民主々義の事であって、昔の思想と違っている事を知らなければならぬ。倫理に於いても、新しい形の個人主義の擡頭しているこの現・・・ 太宰治 「新しい形の個人主義」
出典:青空文庫