・・・ 若いときから、彼女が働く原動力になっていた意地も何も、皆どこへか行ってしまって、あんなに祈願をこめても利益を授からない神様にもほとほと愛想をつかしている今、彼女はただ毎日をどうやら生きてさえいればいいだけである。 いろいろな口実を・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・「ご病気はいかにもご重体のようにはお見受け申しまするが、神仏の加護良薬の功験で、一日も早うご全快遊ばすようにと、祈願いたしておりまする。それでも万一と申すことがござりまする。もしものことがござりましたら、どうぞ長十郎奴にお供を仰せつけら・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・三峯山に登っては、三峯権現に祈願を籠めた。八王子を経て、甲斐国に入って、郡内、甲府を二日に廻って、身延山へ参詣した。信濃国では、上諏訪から和田峠を越えて、上田の善光寺に参った。越後国では、高田を三日、今町を二日、柏崎、長岡を一日、三条、新潟・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・仰って、いまは、透き通るようなお手をお組みなされ、暫く無言でいらっしゃる、お側へツッ伏して、平常教えて下すった祈願の言葉を二た度三度繰返して誦える中に、ツートよくお寐入なさった様子で、あとは身動きもなさらず、寂りした室内には、何の物音もなく・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫