・・・話がうますぎると思う。神主さんの、からくりではないかとさえ、疑いたくなるのである。 桜は、こぼれるように咲いていた。「散らず、散らずみ。」「いや、散りず、散りずみ。」「ちがいます。散りみ、散り、みず。」 みんな笑った。・・・ 太宰治 「春昼」
・・・ しかしまあ自分の主義によってこうして居るんですが―― 神主じゃあんまり下さいませんな。」 斯う云って居る目には生活難を感じながら平身低頭して朝夕神に仕えて居なければならない貧しい神官のあわれさが、しみじみと浮び見えて居た。・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 家柄は禰宜様――神主――でも彼はもうからきし埒がないという意味で、禰宜様宮田という綽名がついているのである。 人中にいると、禰宜様宮田の「俺」はいつもいつも心の奥の方に逃げ込んでしまって、何を考えても云おうとしても決して「俺の考」・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・丁度その時広岸山の神主谷口某と云うものが、怪しい非人の事を知らせてくれたので、九郎右衛門が文吉を見せに遣った。非人は石見産だと云っていた。人に怪まれるのは脇差を持っていたからであった。しかし敵ではなかった。 九郎右衛門の足はまだなかなか・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫