・・・ 何ゆえに自分がここでこのような、読者にとってはなんの興味もない一私人の経験を長たらしく書き並べたかというと、これだけの前置きが、これから書こうとするきわめて特殊な、そうして狭隘で一面的な文学観を読者の審判の庭に供述する以前にあらかじめ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ ジャーナリズムのあらゆる長所と便益とを保存してしかもその短所と弊害を除去する方法として考えられる一つの可能性は、少なくも主要な新聞を私人経営になる営利的団体の手から離して、国民全体を代表する公共機関の手に移すということである。それが急・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・これに反して英国で高層観測事業が一私人ダインスの手から政府に移ったのはずっと後の事であった。また近頃エールシャイアのある地に航空隊の練習場を設けかかった。あらかじめ気象学者の意見を徴すればよいのに、工学者や軍人だけで土地を選定しいよいよ工事・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・一、そのつつましいたのしさをうちこわすものは何だろうか。交通地獄の恐怖である。検事局と書いた木札を胸にかけて、乗ろうとする粗暴な群集を整理するわけにもゆかない。一私人として立てば、やはり我身をもみくしゃにされ、妻を顧みて「おい大丈夫か」とい・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 八日、基ちゃんと、青山にかえる途中、乃木坂行電車の近くで、大森の基ちゃんの友人に会い、実際鮮人が、短銃抜刀で、私人の家に乱入した事実を、自分の経験上はなされた。 つかまった鮮人のケンギの者にイロハニを云わせて見るのだそうだ。そして・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
今年は、九月の太陽に「我に叛く」を発表したぎりでございました。従って、此処に改めて述ぶべきほどの感想も持合わせません。只あの作は、自分並私人的周囲に強い影響を与えたと云う点で、忘られないものになりました。〔一九二一年十・・・ 宮本百合子 「強い影響を与えた点で」
出典:青空文庫