・・・ まもなく後に菊酒屋と云う有名な酒屋にやった所がここも秋口から物やかましいといやがられたので又、ここも縁がないのだからしかたがないと云って呼びかえした。其後又、今度は貸金までして仕度をして何にも商ばいをしない家にやるとここも人手が少なく・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・ きのうきょうは秋口らしい豪雨が降りつづいた。廊下の端に、降りこめられた蜘蛛が、巣もはらずにひっそりしている。その蜘蛛は藁しべに引かかったテントウ虫のように、胴ばかり赤と黒との縞模様だ。〔一九二五年十月〕・・・ 宮本百合子 「この夏」
出典:青空文庫