・・・さっき米原を通り越したから、もう岐阜県の境に近づいているのに相違ない。硝子窓から外を見ると、どこも一面にまっ暗である。時々小さい火の光りが流れるように通りすぎるが、それも遠くの家の明りだか、汽車の煙突から出る火花だか判然しない。その中でただ・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・――この列車は、米原で一体分身して、分れて東西へ馳ります。 それが大雪のために進行が続けられなくなって、晩方武生駅(越前へ留ったのです。強いて一町場ぐらいは前進出来ない事はない。が、そうすると、深山の小駅ですから、旅舎にも食料にも、乗客・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・ 東京市の大地図を一枚買って、東京駅から、米原行の汽車に乗った。遊びに行くのでは、ないんだぞ。一生涯の、重大な記念碑を、骨折って造りに行くのだぞ、と繰返し繰返し、自分に教えた。熱海で、伊東行の汽車に乗りかえ、伊東から下田行のバスに乗り、・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・大垣米原間の鉄道線路は、この顕著な「地殻の割れ目」を縫うて敷かれてある。 山の南側は、太古の大地変の痕跡を示して、山骨を露出し、急峻な姿をしているのであるが、大垣から見れば、それほど突兀たる姿をしていないだろうという事は、たとえば陸地測・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・「つづけて二三本出ますね」と、綿密に自分の小型旅行案内をくっては調べてやっている。「米原三時五十五分ですよ」「これ何時にいぐんです?」「上野が五時半頃でしょう」 満鉄は、そうきいても、ぼーとしたように黙っている。・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・入京は非常に困難らしいが、幸いなことに、私共は四日の午後に、何がなくとも、福井を出発する準備をしていた。米原から東京駅までの寝台券も取ってあった。それを信越線迂回に代えて貰うことは出来よう。私共は、翌三日にそれ等の準備をし、予定通り四日に東・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫