・・・煉瓦を羽蟻で包んだような凄じい群集である。 かりに、鎌倉殿としておこう。この……県に成上の豪族、色好みの男爵で、面構も風采も巨頭公によう似たのが、劇興行のはじめから他に手を貸さないで紫玉を贔屓した、既に昨夜もある処で一所になる約束があっ・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・僕の部屋の窓を夜どおし明けはなして盗賊の来襲を待ち、ひとつ彼に殺させてやろうと思っているのであるが、窓からこっそり忍びこむ者は、蛾と羽蟻とかぶとむし、それから百万の蚊軍。(君曰君、一緒に本を出さないか。僕は、本でも出して借金を全部かえしてし・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・て朝寐かな妹が垣根三味線草の花咲きぬ卯月八日死んで生るゝ子は仏閑古鳥かいさゝか白き鳥飛びぬ虫のためにそこなはれ落つ柿の花恋さま/″\願の糸も白きより月天心貧しき町を通りけり羽蟻飛ぶや富士の裾野の小家より七・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫