・・・ほかの人もアメリカへ金もらいに行くから私も行こう、他の人も壮士になるから私も壮士になろう、はなはだしきはだいぶこのごろは耶蘇教が世間の評判がよくなったから私も耶蘇教になろう、というようなものがございます。関東に往きますと関西にあまり多くない・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・然し後年、左様私が二十一歳の時、旅から帰って見たら、足掛三年ばかりの不在中に一家悉く一時耶蘇教になったものですから、年久しく堅く仕付けられた習慣も廃されて仕舞って、毎朝の務も私を限りに終りました。こういう家庭のありさまでしたから、近来私の一・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・ もっともそういえば仏教でも耶蘇教でもフイフイ教でも同じになるかもしれないし、そうなればいったい何をおがんだらよいかわからなくなって困るかもしれない。 俳諧が宗教のように「おがむ」ことならば宗派があるのは当然かもしれない。しかし俳諧・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・蓄音機今音羽屋の弁天小僧にして向いの壮士腕をまくって耶蘇教を攻撃するあり。曲書きのおじさん大黒天の耳を書く所。砂書きの御婆さん「へー有難う、もうソチラの方は御済になりましたかなー、もうありませんかなー。」へー有難うこれから当世白狐伝を御覧に・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・ それにつけて想い出されるのは、仏教や耶蘇教の宗教画の中にも、この絵巻物の中に現われているような不思議な嗜虐性要素のしばしば現われることである。十字架の基督や矢を受けた聖セバスチアンもそうであるし、また地獄変相図やそれに似た耶蘇教の地獄・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・西洋人が予期せざる日本の文明に驚ろくのは、彼らが開化という観念を誤まり伝えて、耶蘇教的カルチュアーと同意義のものでなければ、開化なる語を冠すべきものでないと自信していたからであるというが如きはその一例である。西洋の開化と耶蘇教的カルチュアー・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・しかし耶蘇教の神様も存外半間なもので、こういう時にちょっと人を助けてやる事を知らない。そこでもって家賃が滞る――倫敦の家賃は高い――借金ができる、寄宿生の中に熱病が流行る。一人退校する、二人退校する、しまいに閉校する。……運命が逆まに回転す・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・だから保羅の説いた耶蘇教が、その実保羅自身の耶蘇教であつて、他のいかなる耶蘇教ともちがつてゐた――恐らくは耶蘇自身の耶蘇教ともちがつてゐた――と同じく、私の鑑賞によるところの雪舟は、私自身の雪舟であつて他のいかなる人々の見た雪舟とも差別され・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・或る地方の好色男子が常に不品行を働き、内君の苦情に堪えず、依て一策を案じて内君を耶蘇教会に入会せしめ、其目的は専ら女性の嫉妬心を和らげて自身の獣行を逞うせんとの計略なりしに、内君の苦情遂に止まずして失望したりとの奇談あり。天下の男子にして女・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 世に道徳論者ありて、日本国に道徳の根本標準を立てんなど喧しく議論して、あるいは儒道に由らんといい、あるいは仏法に従わんといい、あるいは耶蘇教を用いんというものあれば、また一方にはこれを悦ばず、儒仏耶蘇、いずれにてもこれに偏するは不便な・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫