・・・ これは二重の意義を持っていた。密輸入につきものの暴利をむさぼるだけではなかった。 肉色に透き通るような柔らかい絹の靴下やエナメルを塗った高い女の靴の踵は、ブルジョア時代の客間と、頽廃的なダンスと、寝醒めの悪い悪夢を呼び戻す。花から・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・萌黄地に肉色で大きく鶴の丸を染め抜いた更紗蒲団が今も心に残っている。頭がさえて眠られそうもない。天井につるした金銀色の蠅除け玉に写った小さい自分の寝姿を見ていると、妙に気が遠くなるようで、からだがだんだん落ちて行くようななんとも知れず心細い・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
・・・けれども、狙いをつけていざ飛ぼうなどとする時、翼を引緊めた姿を横から見ると、大きい肉色の嘴は、何という毒々しく、猛々しく感じられることだろう…… ――いつか四辺がひっそりとなった。小鳥はもう囀らない。はしばしがとけ、土にくまどられた雪の・・・ 宮本百合子 「小鳥」
出典:青空文庫