・・・彼等の中には、他に幾つも別荘を所有する者もあって、たゞ一つという訳でなく、所有欲より、すべての山林、畑地の名儀にて登記し、公然、脱税せるものもあるのだ。かりに、これを借りることも、規律正しく使用するに於ては、ために一木一草を損うことなくすむ・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・何のための留置かわからなかったが、やつれはてて帰ってきたお君の話で、安二郎の脱税に関してだとわかった。それならば安二郎が出頭しなければならぬのにと豹一は不審に思った。だんだんに訊いてみると、安二郎は偽せの病気を口実にお君を出頭させたのだとわ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・狐の誑し遊びのように、ちょいと形を代えて細かい札にさえすれば、何十万円という金が、脱税出来るからくりとは知らなかった。インフレーションで悲鳴をあげているのは、実直な勤労生活者であり、モラトリアムで大いにあわてるのは「資本主義のからくり」に精・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・その上に、昨今は取引高税その他日常生活に直接ひびく課税目録がふえた。脱税は重い刑でとりしまるとおびやかされている。政府は、日本の目下の状態として、やむを得ないと責任をさけるが、大きい男の肩にしょわせた包みの中にはちゃんと自分たちのとりまえが・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・新聞の脱税事件、収賄事件に公憤を感じざるを得ない允子である。息子に真理を教えようとして、今日の日本の母としては最も進歩的に性の教育にさえのり出した母であった。パーウェルの母のように出来ないことは、彼女の小市民としての環境からうなずけるとして・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・この間に、財閥、金もちたちは、十分脱税の方法と、財産隠匿をする時間を与えられた。事実、この税案が公表されてから後、それらの人々の濫費のために、目に見えて物価は高くなり、インフレーションは増大したのであった。 いざモラトリアムが公布される・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫