・・・彼女は、腕白小僧のような口調でそれ等の苦情をいっている。私は、彼女の顔つきを想像し、声に出ない眼尻の笑いで微笑した。「癇癪もちさん! まあまあそういきばらずに!」「帰りに鎌倉へ廻り、家を見て来た。ほら、いつぞや、若竹をたべた日本橋の・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・擲り合て喧嘩をする腕白小僧も、一人女の子が入って腕をつかむと、嘘のように音なしくなってしまいます。其故、年をとるに従って種々の条件から加って来る自尊心は、法律的権利を獲得することによって一層強められて居ります。日本の婦人には与えられて居ない・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・それからのう貴方様、まだ和子とお呼び申して居った頃の事での、 お城内の腕白共がフト迷い込んで出る道を忘れたあほう鳩を捕えて足に石を結いつけては追ってよう飛ばぬ不様な形を見て笑って居るのをお見なされてその者達の所にお出なされて、 もう・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・これらの狂言の中に出現する女は、謡曲の女主人公達の悲劇的な亡霊的存在と較べて、その感性、行動がいかにも現世的であり、腕白であり、時には晴れ晴れと亭主を尻にも敷いている。狂言の行中には、いつも少し魯鈍でお人よしな殿と、頓智と狡さと精力に満ちた・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・街街の一隅を馳け廻っている、いくら悪戯をしても叱れない墨を顔につけた腕白な少年がいるものだが、栖方はそんな少年の姿をしている。郊外電車の改札口で、乗客をほったらかし、鋏をかちかち鳴らしながら同僚を追っ馳け廻している切符きり、と云った青年であ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫