・・・勿論まるきり、その人たちに留めさせる事の出来ない事は、解って、あきらめなければならないまでも、手筈を違えるなり、故障を入れるなり、せめて時間でも遅れさして、鷭が明らかに夢からさめて、水鳥相当に、自衛の守備の整うようにして、一羽でも、獲ものの・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
これは、いま、大日本帝国の自存自衛のため、内地から遠く離れて、お働きになっている人たちに対して、お留守の事は全く御安心下さい、という朗報にもなりはせぬかと思って、愚かな作者が、どもりながら物語るささやかな一挿話である。大隅・・・ 太宰治 「佳日」
・・・をみじんも気にしないという脱俗人ではなし、また、自分の作品がどんな悪評にも絶対にスポイルされないほど剛いものだという自信を持つことも出来ないので、かねて胸くそ悪く思っているひとの言動に対し、いまこそ、自衛の抗議をこころみているわけなのだ。・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・すべて、みな、この憂さに沈むことの害毒を人一倍知れる心弱くやさしき者の自衛手段と解して大過なかるべし。われ、事に於いて後悔せず、との菊池氏の金看板の楯の弱さにも、ふと気づいて、地上の王者へ、無言で一杯のミルクささげてやって呉れる決意ついたら・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・残存し繁栄した種族は自衛の能力あるものか、しからざれば人間の保護によるものであると付け加えている。そして半人半獣の怪物が現存し得ざるゆえんを説いているのである。 次には原始人類の生活状態から人文の発達の歴史をかなり詳しく論じている。これ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・在昔の武家の婦人が九寸五分の懐剣を懐中するに等しく、専ら自衛の嗜みなりと知る可し。一 若き時は夫の親類友達下部等の若男には打解けて物語近付べからず。男女の隔を固すべし。如何なる用あり共、若男に文など通すべからず。 若・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・婦人従業員をふくめた自衛団が組織され、全員十六歳から二十五歳という青年だがその統制が整然としていること。職場の特殊性をすべて争議団側に有利なように科学的に利用している点とともに、革命的指導による極めて新しいストライキの型を示すものであった。・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ゲーテは女との結合、離別に際していつも自身の天才に対する、或る点では坊ちゃんらしい自尊自衛から自由になり得ていないのであるが、ゴーリキイは自分の才能と女の天分との比較裁量などということはしていない。一人の女としてその女なりの生活を認め、同時・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
出典:青空文庫