・・・況んや譬えんものもなき夫を産みたる至尊至親の老父母に於てをや。其保養を厚うし其感情を和らげ、仮初にも不愉快の年を発さしむることなきよう心を用う可し。殊に老人は多年の経験もあることなれば、万事に付き妨げなき限りは打明けて語り打明けて相談す可し・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・その策如何というに、朝夕主人の言行を厳重正格にして、家人を視ること他人の如くし、妻妾児孫をして己れに事うること奴隷の主君におけるが如くならしめ、あたかも一家の至尊には近づくべからず、その忌諱には触るべからず、俗にいえば殿様旦那様の御機嫌は損・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・、天下の政権武門に帰し、帝室は有れども無きがごとくなりしこと何百年、この時に当りて臨時の処分を謀りたらば、公武合体等種々の便利法もありしならんといえども、帝室にして能くその地位を守り幾艱難のその間にも至尊犯すべからざるの一義を貫き、たとえば・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・某が買い求め候香木、畏くも至尊の御賞美を被り、御当家の誉と相成り候事、存じ寄らざる儀と存じ、落涙候事に候。 その後某は御先代妙解院殿よりも出格の御引立を蒙り、寛永九年御国替の砌には、三斎公の御居城八代に相詰め候事と相成り、あまつさえ殿御・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・某が買求め候香木、畏くも至尊の御賞美を被り、御当家の誉と相成り候事、存じ寄らざる仕合せと存じ、落涙候事に候。 さりながら一旦切腹と思定め候某、竊に時節を相待ちおり候ところ、御隠居松向寺殿は申に及ばず、その頃の御当主妙解院殿よりも出格の御・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫