・・・はすこしく風流の趣向、または高尚の工夫なくんば、かの下等動物などの、もの食いて喉を鳴らすの図とさも似たる浅ましき風情と相成果申すべく、すなわち各人その好む所に従い、或いは詩歌管絃、或いは囲碁挿花、謡曲舞踏などさまざまの趣向をこらすは、これ万・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ ――恋愛の舞踏の終ったところから、つねに、真の物語がはじまります。めでたく結ばれたところで、たいていの映画は、the end になるようでありますが、私たちの知りたいのは、さて、それからどんな生活をはじめたかという一事であります。人生・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 午後九時から甲板で舞踏会を催すという掲示が出た。それに署名された船長の名前がいかめしく物々しく目についた。夕飯後からそろそろ準備が始まった。各国の国旗で通風管や巻き上げ器械などを包みかくし、手すりにも旗を掛け連ねた。赤、青、緑、いろい・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・例えば一見甚だ陰鬱な緑色のセピアとの配合、強烈に過ぎはしないかと疑われる群青と黄との対照、あるいは牡丹の花などにおける有りとあらゆる複雑な紫色の舞踏、こういうようなものが君の絵に飽かざる新鮮味を与え生気を添えている。こういう点だけでも自分の・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・もっとも正当なソナタやシンフォニーのように四楽章から成る場合だと、第一章が通例早いテンポのソナタ形式のもの、第二章がいわゆるスロームーヴメントで表情豊かな唱歌形式のもの、第三章が軽快な舞踏曲のようなもので、往々諧謔的なスケルツォが使われる。・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・その境の引戸を左右に明放つと、舞踏のできる広い一室になるようにしてあった。階上にはベランダを廻らした二室があって、その一は父の書斎、一つは寝室であるが、そのいずれからも坐ながらにして、海のような黄浦江の両岸が一目に見渡される。父はわたくしに・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・月見なり、花見なり、音楽舞踏なり、そのほか総て世の中の妨げとならざる娯しみ事は、いずれも皆心身の活力を引立つるために甚だ緊要のものなれば、仕事の暇あらば折を以て求むべきことなり。これを第五の仕事とすべし。 右の五ヶ条は、いやしくも人間と・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・その熱い灰の上でばかり、おれたちの魂は舞踏していい。いいか。もうみんな大さわぎだ。さて、その煙が納まって空気が奇麗に澄んだときは、こっちはどうだ、いつかまるで空へ届くくらい高くなって、まるでそんなこともあったかというような顔をして、銀か白金・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・どうかあとの所はみなさんで活動写真のおしまいのありふれた舞踏か何かを使ってご勝手にご完成をねがうしだいであります。 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・アツレキ三十一年七月一日夜、表、アフリカ、コンゴオの林中の空地に於て故なくして擅に出現、舞踏中の土地人を恐怖散乱せしめたる件。」「よろしい、わかった。」とネネムは云いました。「姓名年齢その通りに相違ないか。」「へい。その通りです・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫