・・・ 臓器から製した薬剤の効果がその中に含有するきわめて微量な金属のためであって、その効果はその薬を焼いて食わせても変わらないらしいという説がある。しかし、それかと言ってその金属の粉をなめたのでは何もならない。ここに未知の大きな世界の暗示が・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 社会の風教を乱すような邪教淫祠、いかがわしい医療方法や薬剤、科学の仮面をかぶった非科学的無価値の発明や発見、そういうものに世人の多くが迷わされて深入りしない前にそれらの真価を探求したい。官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・即ち薬剤にて申せば女子に限りて多量に服せしむるの意味ならんなれども、扨この一段に至りて、女子の力は果して能く此多量の教訓に堪えて瞑眩することなきを得るや否や甚だ覚束なし。既に温良恭謙柔和忍辱の教に瞑眩すれば、一切万事控目になりて人生活動の機・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・例えば小児が腹痛すればとて例の妙薬黒焼など薬剤学上に訳けの分らぬものを服用せしむ可らず、事急なれば医者の来るまで腰湯パップ又は久しく通じなしと言えば灌腸を試むる等、外用の手当は恐る/\用心して施す可きも、内服薬は一切禁制にして唯医者の来診を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・この救急の政略を施すに、かねてまた、これを教育の組織に求めんとするは、肝油・鉄剤に求むるに鎮痛の即効をもってするに異ならず。この薬剤にして、よくこの効を奏すべきか、もしも然らしめんとするには、まずこの薬に配合するに他の薬物をもってし、その性・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・大黄の下剤の如きは、二、三時間以上を経過するに非ざれば腸に感応することなし。薬剤の性質、相異なるを知るべし。また、草木に施す肥料の如き、これに感ずるおのおの急緩の別あり。野菜の類は肥料を受けて三日、すなわち青々の色に変ずといえども、樹木は寒・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・爾薩待「だからね、今も言ってるんだ、こんな天気のまっ盛りに肥料にしろ薬剤にしろかけるという筈はないんだ。」農民二「何したどす。お前さん、今行ってすぐ掛げろって言ったけぁか。」爾薩待「それは言った。言ったけれども、君たちのやったよ・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
出典:青空文庫