・・・身は、傅の大納言藤原道綱の子と生れて、天台座主慈恵大僧正の弟子となったが、三業も修せず、五戒も持した事はない。いや寧ろ「天が下のいろごのみ」と云う、Dandy の階級に属するような、生活さえもつづけている。が、不思議にも、そう云う生活のあい・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
山吹つつじが盛だのに、その日の寒さは、俥の上で幾度も外套の袖をひしひしと引合せた。 夏草やつわものどもが、という芭蕉の碑が古塚の上に立って、そのうしろに藤原氏三代栄華の時、竜頭の船を泛べ、管絃の袖を飜し、みめよき女たち・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・ と、茶碗が、また、赤絵だったので、思わず失言を詫びつつ、準藤原女史に介添してお掛け申す……羽織を取入れたが、窓あかりに、「これは、大分うらに青苔がついた。悪いなあ。たたんで持つか。」 と、持ったのに、それにお米が手を添えて、・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・畏きや時の帝を懸けつれば音のみし哭かゆ朝宵にして これは日本の万葉時代の女性、藤原夫人の恋のなやみの歌である。彼女は実に、××に懸想し奉ったのであった。稲つけばかがる我が手を今宵もか殿のわくごがとりて嘆かな ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・増鏡巻五に、太政大臣藤原公相の頭が大きくて大でこで、げほう好みだったので、「げはふとかやまつるにかゝる生頭のいることにて、某のひじりとかや、東山のほとりなりける人取りてけるとて、後に沙汰がましく聞えき」という事があって、まだしゃれ頭にならな・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・さして行く笠置の山、と仰せられては、藤原季房ならずとも、泣き伏すにきまっている。あまりの事に、はにかんで、言えないだけなのである。わかり切った事である。鳴かぬ蛍は、何とかと言うではないか。これだけ言ってさえも、なんだか、ひどく残念な気がする・・・ 太宰治 「一燈」
・・・とか、あまり有名ではないが隠れた科学者文学者バーベリオンの日記とかいうものがそうである。日本人のものでは長岡博士の「田園銷夏漫録」とか岡田博士の「測候瑣談」とか、藤原博士の「雲をつかむ話」や「気象と人生」や、最近に現われた大河内博士の「陶片・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・しかし単なる理論のテストでなく、現象を精察する意味での実地的方面の研究はかえって少ないようであるが、わが国で地球物理の問題に関係して藤原博士や徳田博士の行なわれたいろいろの実験はこの意味においてきわめて興味の深い有益なものである。それからこ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 火山の爆音の異常伝播については大森博士の調査以来藤原博士の理論的研究をはじめとして内外学者の詳しい研究がいろいろあるが、しかし、こんなに火山に近い小区域で、こんなに音の強度に異同のあるのはむしろ意外に思われた。ここにも未来の学者に残さ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・八月二十九日 曇、午後雷雨 午前気象台で藤原君の渦や雲の写真を見る。八月三十日 晴 妻と志村の家へ行きスケッチ板一枚描く。九月一日 朝はしけ模様で時々暴雨が襲って来た。非常な強度で降っていると思うと、ま・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
出典:青空文庫