・・・それに、全く文字どおりの着のみ着のままという罹災者は一人も無く、まずたいていは荷物の四個や五個はどこかに疎開させていて、当分の衣料その他に不自由は無いものの如くに見受けられる。それだけのお金や品物が残っていたら、なに、あとはその人の創意工夫・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・ 特に裁縫ではいろいろ細工がある。衣料関係の労働は、こういう大量の既製品製作ばかりではない。金モール細工をする人、刺繍をする人、さけた布地をつぐ専門家、大体それは女の仕事であった。或は、立って働くには不便な不具の男の仕事とされた。アンデ・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・おのずから、殖える人数が楽しく生きて行けるだけの衣料と食物と燃料とが湧き出して来る家庭というような、魔法の小屋は、今日、日本のどこにもあり得ない。魔法の小屋でない「家庭」へ表口から帰された女子失業群が、溢れ出した裏口は、真直、街頭につづいて・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫