・・・にしたと思いますが、鎌倉から東京へ帰り、間もなく帰郷して例の関係事業に努力を傾注したのでしたが、慣れぬ商法の失敗がちで、つい情にひかされやすい私の性格から、ついにある犯罪を構成するような結果に立到り、表記の未決監に囚われの身となりおります次・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・閑事という二字が記されてあった。閑事と表記してあるのは、急を要する用事でも何んでも無いから、忙がしくなかったら披いて読め、他に心の惹かれる事でもあったら後廻しにしてよい、という注意である。ところがその閑事としてあったのが嬉しくて、他の郵書よ・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・私の住所と名前は表記のとおりです。偽名ではございませんから、御安心下さいませ。貴下が、他日、貴下の人格を完成なさった暁には、かならずお逢いしたいと思いますが、それまでは、文通のみにて、かんにんして下さいませ。本当に、このたびは、おどろきまし・・・ 太宰治 「恥」
・・・そうして当局者の好意で主要な高山における三角点の観測者の名前とその測量年度を表記したものを手にすることができた。しかし今ここでその表の一小部分でも載せることは紙面の制限上到底許されない。それでここではただ現在陸地測量部地形図の恩恵をこうむり・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
出典:青空文庫