・・・が、それは大抵受取った感銘へ論理の裏打ちをする時に、脱線するのだ。感銘そのものの誤は滅多にはない。「技巧などは修辞学者にも分る。作の力、生命を掴むものが本当の批評家である。」と云う説があるが、それはほんとうらしい嘘だ。作の力、生命などと云う・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・念仏の心が裏打ちしていれば、自由競争も、戦術も、おのずと相違してくるのである。この外側からはわからない内側の心持の世界というものが、限りない深さと広がりとのあるもので、それが信仰の世界である。そしてそれは、さぐってもさぐっても限りないもので・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・漱石のサロンにはこの悲劇の裏打ちがあったのである。 このことにはっきりと気づいたのは、漱石の死後十年のころに、ベルリンで夏目純一君に逢ったときである。純一君は漱石が朝日新聞に入社したころ生まれた子で、漱石の没したときにはまだ満十歳にはな・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫