・・・それに又何だって見世物になんぞするんだい」と云い度かった。奴等は女の云う所に依れば、悪いんじゃないんだが、それにしてもこんな事は明に必要以上のことだ。 ――こいつ等は一体いつまでこんなことを続けるんだろう――と私は思った。 私はいく・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・斯る化物は街道に連れ出して見世物となすには至極面白かるべけれども、世の中のためには甚だ困りものなり。 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・万一形が崩れぬとした所で、浅草へ見世物に出されてお賽銭を貪る資本とせられては誠に情け無い次第である。 死後の自己に於ける客観的の観察はそれからそれといろいろ考えて見ても、どうもこれなら具合のいいという死にようもないので、なろう事なら星に・・・ 正岡子規 「死後」
・・・紫だの緑だのずいぶん奇麗な見世物だよ、僕らはその下で手をつなぎ合ってぐるぐるまわったり歌ったりする。 そのうちとうとう又帰るようになるんだ。今度は海の上を渡って来る。あ、もう演習の時間だ。あした又話すからね。じゃさよなら。」又三郎は一ぺ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
山の神の秋の祭りの晩でした。 亮二はあたらしい水色のしごきをしめて、それに十五銭もらって、お旅屋にでかけました。「空気獣」という見世物が大繁盛でした。 それは、髪を長くして、だぶだぶのずぼんをはいたあばたな男が、小・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・森の奥、廃れた見世物小屋、 二十七日 A、Lake George に立つ。 二十八日 金曜。いつ結婚するか、Aは good reputation を持たない等と話す。 二十九日 土曜、Aかえる。Grand Central ・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ けれども、全体を通じ、忠実な少女お君に、主人の仇討ちを思い立たせるほど纏々としてつきない林之助への執着が統一した印象となって浮上らなかったのは如何したものだろう。 見世物小屋の楽屋で、林之助の噂をする時、菓子売の勘蔵に林之助の情事・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・アイヌの歌を真に理解して、それに興を覚えて聞くならよいでしょうが、見世物のようにされては可哀想です。 彫刻なども、内地人が入ってからは、金の為に粗末なものを沢山に作り出すようになりましたので、真の技倆は悪くなってしまいました。それで・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・東京にいた時、光線の反射を利用して、卓の上に載せた首が物を言うように思わせる見世物を見たことがあった。あれは見世物師が余り prtentieux であったので、こっちの反感を起して面白くなかった。あれよりは此方が余程面白い。石田はこんなこと・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・自分たちが今いるのはわびしい小さな電車の中ではなくして、実ににぎやかな、驚くべき見世物の充満した、アリスの鏡の国よりももっと不思議な世界である。我々は驚異の海のただ中に浮かんでいる。山川草木はことごとく浄光を発して光り輝く。そういったような・・・ 和辻哲郎 「寺田さんに最後に逢った時」
出典:青空文庫