・・・ 流石は外国人だ、見るのも気持のいいようなスッキリした服を着て、沢山歩いたり、どうしても、どんなに私が自惚れて見ても、勇気を振い起して見ても、寄りつける訳のものじゃない処の日本の娘さんたちの、見事な――一口に云えば、ショウウインドウの内・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・』 貴婦人は見事な肩掛を、赤さんへお掛けなすって、急いで出口の方へ行ってお了いでした。其御様子が何様にお美しく見上げられたでしょう。『僞善よ。ほほ。』と、また可怖い眼で見送りでしたの。『僕も主義を改めて、あの百姓のお神さんに同情・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・在昔大名の奥に奉公する婦人などが、手紙も見事に書き弁舌も爽にして、然かも其起居挙動の野鄙ならざりしは人の知る所なり。参考の価ある可し。左れば今の女子を教うるに純然たる昔の御殿風を以てす可らざるは言うまでもなきことなれども、幼少の時より国字の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・じっさいあのまっしろなプクプクした、玉髄のような、玉あられのような、又蛋白石を刻んでこさえた葡萄の置物のような雲の峯は、誰の目にも立派に見えますが、蛙どもには殊にそれが見事なのです。眺めても眺めても厭きないのです。そのわけは、雲のみねという・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ドイツからの労働者見学団の若い男女たちは、その収穫の壮大な仕事ぶりを見てきたばかりなので、片言のロシア語やあやしげな英語でさかんにその見事な様子について私に話してきかせる。私がロストフへきていたのもその「ギガント」を見るためなのである。・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・誰はなんと言って死んだ、誰の死にようが誰よりも見事であったという話のほかには、なんの話もない。弥一右衛門は以前から人に用事のほかの話をしかけられたことは少かったが、五月七日からこっちは、御殿の詰所に出ていてみても、一層寂しい。それに相役が自・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そこで肝心のだんまりも見事にお流れになりましたの。それと一しょに何もかもお流れになりましたのね。まあ、本当に迷ってしまっている女にだって、何もかも大きな声ではっきりそう言えとおっしゃることは、男の方にも出来ますまい。ところで何を打ち明けるに・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・腰の物は大小ともになかなか見事な製作で、鍔には、誰の作か、活き活きとした蜂が二疋ほど毛彫りになッている。古いながら具足も大刀もこのとおり上等なところで見るとこの人も雑兵ではないだろう。 このごろのならいとてこの二人が歩行く内にもあたりへ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・やはり同じ失敗の作で、成功というような見事な不自然なことは到底及びもつかない夢だと思う。もし傑作が出来ればまぐれ当りだ。私が何をしていくかという質問を出された前では、ただ自分は爆けていき、はみ出して行きたいと望んでいると答えるより、今のとこ・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・ しかし奥様がどことなく萎れていらしって恍惚なすった御様子は、トント嬉かった昔を忍ぶとでもいいそうで、折ふしお膝の上へ乗せてお連になる若殿さま、これがまた見事に可愛い坊様なのを、ろくろくお愛しもなさらない塩梅、なぜだろうと子供心にも思いまし・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫