・・・水の家にも一日に数回見廻ることもある。夜は疲労して座に堪えなくなる。朝起きては、身の内の各部に疼痛倦怠を覚え、その業に堪え難き思いがするものの、常よりも快美に進む食事を取りつつひとたび草鞋を踏みしめて起つならば、自分の四肢は凛として振動する・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・人々荒跡を見廻るうち小舟一艘岩の上に打上げられてなかば砕けしまま残れるを見出しぬ。「誰の舟ぞ」問屋の主人らしき男問う。「源叔父の舟にまぎれなし」若者の一人答えぬ。人々顔見あわして言葉なし。「誰れにてもよし源叔父呼びきたらずや」・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・市場の辻の消防屯所夜でも昼でも火の見で見張りぐるぐる見回る 北は……… 南は……… 西は……… 東は………どっかに煙はさて見えないか。 わが国の教育家、画家、詩人ならびに出版業・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・スリッパをはいて見回る、その足音を生徒がけむったがってスリッパというあだ名をつけていたそうである。生徒はまた亮に「たつのおとし子」というあだ名をつけていると自分で話していた。これは彼の顔つきややせてひょろ長く、猫背を丸くしている格好などから・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・三郎は寝鳥を取ることが好きで邸のうちの木立ち木立ちを、手に弓矢を持って見廻るのである。 二人は父母のことを言うたびに、どうしようか、こうしようかと、逢いたさのあまりに、あらゆる手立てを話し合って、夢のような相談をもする。きょうは姉がこう・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫