・・・要するに不規律のやり方ではあるが、どうも自分の性質として、窮屈に勉強するより、楽に自分の気に入ったようにするほうが、心がゆったりして記憶する上にもよかった。だがこんな事は決して、自分ながらも結構な事とは思っていぬのだから、読者諸君においても・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・そうして彼らの間に規律と云うものが無かったならば、――彼らのうちには今日は頭が痛いから休むというものもできようし、朝の七時からは厭だからおれは午後から出るとわがままを云うものもできようし、あるいは今日は少し早く切り上げて寄席へ行くとか、ある・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・――二つのものの性質を概括していうと、あなた方の方は規律で行き、私どもの方は不規律で行く。その代り報酬は極悪い。金持になる人、なりたい人は、規律に服従せねばならない。あなた方の方は mechanical science の応用で、私どもの方・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・先生は無論授業をする資格のない人です。叱る代りには骨を折って教えてくれるにきまっています。叱る権利をもつ先生はすなわち教える義務をももっているはずなのですから。先生は規律をただすため、秩序を保つために与えられた権利を十分に使うでしょう。その・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・だが日本の兵士たちは、もっと勇敢で規律正しく、現実的な戦意に燃えていた。彼らは銃剣で敵を突き刺し、その辮髪をつかんで樹に巻きつけ、高粱畠の薄暮の空に、捕虜になった支那人の幻想を野曝しにした。殺される支那人たちは、笛のような悲声をあげて、いつ・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・けだしこの学を世におしひろめんには、学校の規律を彼に取り、生徒を教道するを先務とす。よって吾が党の士、相ともに謀りて、私にかの共立学校の制にならい、一小区の学舎を設け、これを創立の年号に取りてかりに慶応義塾と名づく。 ことし四月某日、土・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・ここらがどうも烏の軍隊の不規律なところです。 烏の大尉は、杜のすぐ近くまで行って、左に曲がりました。 そのとき烏の大監督が、「大砲撃てっ。」と号令しました。 艦隊は一斉に、があがあがあがあ、大砲をうちました。 大砲をうつとき・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・はっはっは、どうだ、もっともそれはおれのように勢力不滅の法則や熱力学第二則がわかるとあんまりおかしくもないがね、どうだ、ぼくの軍隊は規律がいいだろう。軍歌にもちゃんとそう云ってあるんだ。」 でんしんばしらは、みんなまっすぐを向いて、すま・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・・一六などの後、運動の困難と再建の事業が集注的関心となった時代には、コロンタイズムは一応揚棄され、運動のためにはあらゆる個人の感情、個人生活の利害を犠牲にしなければならぬものであるという、いわゆる鉄の規律が一般の理解におかれた。 片岡鉄・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ したがって、八月十五日までは勤労動員で奴隷的労働をしていた青年労働者たちが、三ヵ月ののち、そこに出来た労働組合の青年部員と組織されたにしても、その気持がすっぱりと階級の意識と階級の規律とにつらぬかれた青年労働者として転換しないのはやむ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫