・・・ 日本の人民は、東條時代を通じて、もっとも非合理野蛮な侵略主義者の善と悪との規準で支配されてきた。「聖戦」に対して、いくらかでも疑問をもち、侵略行為の人類的悪についてほのめかしでもしようものなら、憲兵と警察と密告者の餌じきにされた。その・・・ 宮本百合子 「地球はまわる」
・・・バルザックが、以上のような規準に従って現実ととり組み、自身の文体をも構造しようと努力した態度の内には、今日においても学ぶべき創作上の鋭い暗示、真の芸術的能才者の示唆を含んでいる。それだのに、バルザックは何故作品の実際では、あのように量的には・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・良心という言葉そのものが一定の規準と行動との関係に於て成立つ言葉である。「希望館」の作者によって言われている強靭な意志というのは、何故にお経を読まされること、阿諛を強いられる境遇に落ちつくことだけを内容とし現代の可能としているのであろう。強・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・それと同時に、左翼運動全般が退潮していて、間接な意味ででも一定の方向とか規準とかいうものが明瞭にあらわれていない。しかも、文化面だけでも社会の対立を意識する心にはそれが鋭く感じられる時期であるから、この三つの事情は相互に絡み合いその上外部と・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・思想的な規準は失われたと一応思い込まれ、自身にそう云いきかせることによって、今日の人間の知性や良心に加えられている重圧に対する溌剌とした対抗力の眠りをさますのをおそれている形である。そして、多くの作家たちは、益々多くの人間的又は作家的な勘に・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・の内部組織は、いわゆる下からの意見を通し客観的な正しい規準で論争することのできない有様であった。まず、正しい道へ階級的立場をおき直し、芸術活動を始めるためには、その第一歩として団体の内部組織そのものの封建性を破壊しなければならない。そのこと・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・な作用で存在し得るためには、少くとも批判の精神と規準とが、或る場合その芸術家の主観をも超えて鞭うち、観察自省せしめ、引き上げるだけの勇気ある誠実な客観性を具えていなければならない。主観に甘えた批評の態度が創作の芸術価値を低下させる実例を、伊・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・芸術価値評価の規準についての論究、社会民主主義文学派の動向に対する注目の必要、文学における大衆性の課題、文学における同伴者性の究明等は、それぞれの時代の文学批評の分野において常に絶えざる関心を刺戟される急所である。特に、最近世界情勢の必然か・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
・・・それ故、例えば文芸映画についても、文学作品そのものへの鑑賞が無規準ななりの或る好評に招きよせられて映画化し、その映画化によって、じかに文学作品をよこよりもっとうわすべりな受けいれかたをひろめるという結果も生じ易い。文芸作品が映画化されてゆく・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・荷風の本質は多分にお屋敷の規準、世間のおきてに照応するものを蔵していて、しかもその他面にあるものが、自身の内部にあるその常識に抵抗し、常識に納まることを罵倒叱咤し、常識の外に侘び住まんことを憧れ誘っている。ロマンティストであるとして荷風のロ・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫