・・・ * * * ポルジイは大した世襲財産のある伯爵家の未来の主人である。親類には大きい尼寺の長老になっている尼君が大勢あって、それがこの活溌な美少年を、やたらに甘やかすのである。 二・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
幼少のころ、高知の城下から東に五六里離れた親類の何かの饗宴に招かれ、泊まりがけの訪問に出かけたことが幾度かある。饗宴の興を添えるために来客のだれかれがいろいろの芸尽くしをやった中に、最もわれわれ子供らの興味を引いたものは、・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・そこで私は、この晴二郎には、左に右兄弟も親類もあることでござえますから、死骸を引取らして頂いて、一ト晩だけは通夜をしてやりとうごぜえんすと、恁う申しあげましたんです。 それでまア、本郷の山本まで引取るなら、旗が五本に人足が十三人……山本・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・「とにかく旧弊な婆さんだな」「旧弊はとくに卒業して迷信婆々さ。何でも月に二三返は伝通院辺の何とか云う坊主の所へ相談に行く様子だ」「親類に坊主でもあるのかい」「なに坊主が小遣取りに占いをやるんだがね。その坊主がまた余計な事ばか・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・い返すと、小万と二人で自分をいろいろ慰めてくれて、小万と姉妹の約束をして、小万が西宮の妻君になると自分もそこに同居して、平田が故郷の方の仕法がついて出京したら、二夫婦揃ッて隣同士家を持ッて、いつまでも親類になッて、互いに力になり合おうと相談・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・六に多言にて慎なく物いひ過すは、親類とも中悪く成り家乱るゝ物なれば去べし。七には物を盗心有るを去る。此七去は皆聖人の教也。女は一度嫁して其家を出されては仮令二度富貴なる夫に嫁すとも、女の道に違て大なる辱なり。 男子が養子に行くも・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・東京には其男の親類というものが無いので、我々朋友が集まって葬ってやった事がある。其時にも棺をつめるのに何を用いるかと聞いてみたら、東京では普通に樒の葉なども用いるという事であった。それからそれを買うて来て例の通り紙の袋を拵えてつめて見た所が・・・ 正岡子規 「死後」
・・・それですから今夜はそのお祝いで親類はみな呼ばれました。 もうみんな大よろこび、ワッハハ、アッハハ、よう、おらおととい町さ行ったら魚屋の店で章魚といかとが立ちあがって喧嘩した、ワッハハ、アッハハ、それはほんとか、それがらどうした、うん、か・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・「東京には、其じゃあ、親類でもあるの?」 娘は、唇をすぼめ、悩ましそうに一寸肩をゆすった。「――親戚はございませんですが……」 黒目がちの瞳で顔をじっと見られ、さほ子は娘の境遇を忽ち推察した。「じゃあ、友達のところにいる・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・出迎をした親類や心安い人の中には、邸まで附いて来たのもあって、五条家ではそう云う人達に、一寸した肴で酒を出した。それが済んだ跡で、子爵と秀麿との間に、こんな対話があった。 子爵は袴を着けて据わって、刻煙草を煙管で飲んでいたが、痩せた顔の・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫