・・・その範疇といふのは、単に感覚や気分だけで、自然人生を趣味的に観照するのである。日本の詩人等は、昔から全く哲学する精神を欠乏して居る。そして此処に詩人と言ふのは、小説家等の文学者一般をも包括して言ふのである。 ニイチェは詩人である。何より・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・「これに反してバルザックは自分の観照の世界に満足してそれから一歩も外に出ようとしなかった」ことを指摘している。書簡は更に不自由そうに「哲学者は世界を様々に解釈して来た、しかし重要なことは云々というフォイエルバッハ綱領の中のマルクスの言葉はそ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・について見ても実際の生活の場面での問題、島木氏が悲壮な闘士のポーズとして描き出している心理の観照的態度、嗜虐性等は真の意味での健全な闘志の表現としては、少からずいかがわしいものであった。個人的な話の間に何時であったか私は「盲目」の終りの部分・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・批判の精神が人間精神の不滅の性能であることやその価値を承認することは、とりも直さず客観的観照の明々白々な光の下に自身の自我の転身の社会的文学的様相を隈なく曝すことになり、それは飽くまで主観的な出発点に立っている精神にとって決して愉快なことで・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・日本の自然主義作家が、一度は確立された自我に向って振う痛烈な自己の鞭打の精神力をもち得ず、低く日常茶飯事を観照し写実的作用を営むところに定着してしまったのは、理由ないことではなかった。 明治四十年から十年間に亙る旺盛な文学活動において、・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・を作家が観照の圏外に追放しただけで文学の生命が純血に保たれないのは勿論であるし、文学が現実を隈なくとらえてゆく意味でのリアリティを失ってゆくのも実際であるが、小説のなかにただそういう性格が実際生活の中でと同様に跋扈するという現象と、時代と社・・・ 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・などを見ても、読者が大仏氏に牽かれるのは、この作者のこの作者らしい人生観照の或る気分、現代のインテリゲンツィアの一部の人々がよかれあしかれ実際にもっており、或は扮装としてポーズしている知的情感的な或る気分の、文学的表現の味に魅力を感じている・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・その謎の説明として、貴方が藤村の社会的・階級的制約をあげ、小市民的インテリゲンツィアとしての観照的態度をあげてあるのは誤った解釈ではないと思いますが、彼が自分の長男をわざわざ木曾にかえして小さいながら自作農として暮させているところ、人生的な・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
・・・そういう相対的な観念を躍り越え、いきなりぐっと生のままの男性に迫り、深い理解、観照を以て心や体を丸彫りにする場合は尠い。理解や観照は対象を愛することから生ずる。好奇心を刺戟されることから起る。そして見ると、女性は、男性が女性を愛すように男を・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・昨年の『慈悲光礼讃』に比べれば、その観照の着実と言い対象への愛と言い、とうてい同日に論ずべきでない。 が、この実証は自分に満足を与えたとは言えない。自分はこの種の写実の行なわれないのを絵の具の罪よりもむしろ画家の罪に帰していた。画家にし・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫