・・・たとえばたった一行を訳するにしても、「そこでロビンソン・クルウソオは、とうとう飼う事にしました。何を飼う事にしたかと云えば、それ、あの妙な獣で――動物園に沢山いる――何と云いましたかね、――ええとよく芝居をやる――ね、諸君も知っているでしょ・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・アインシュタイン自身の言葉として出ている部分はなるべく忠実に訳するつもりである。これに対する著者の論議はわざと大部分を省略するが、しかし彼の面目を伝える種類の記事は保存することにする。 アインシュタインはヘルムホルツなどと反対で講義のう・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・とでも訳する所であろうが、とにかくフランス人らしい巧妙な措辞である。「誅戮」「討伐」「征伐」「征討」などと、武張ったどこかの国のジャーナリストなら書きたい所であろう。それを「平和化」と云ったところはやはりフランス人である。 こんなことを・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ ルクレチウスの atom. 現代の原子と区別するためにかりに元子と訳する。 Newton, Opticks, pp. 375, 376, Second edition, 1718. L'Illustration, 7 Ju・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・一、漢字を知らざれば、原書を訳するにも訳書をよむにも、差支多し。ゆえに、最初エビシを学ぶときより、我が、いろはを習い、次第に仮名本を読み、ようやく漢文の書にも慣れ、字の数を多く知ること肝要なり。一、幼年の者へは漢学を先にして、後に洋・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ されば、外国文を翻訳する場合に、意味ばかりを考えて、これに重きを置くと原文をこわす虞がある。須らく原文の音調を呑み込んで、それを移すようにせねばならぬと、こう自分は信じたので、コンマ、ピリオドの一つをも濫りに棄てず、原文にコンマが三つ・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
源氏物語を現代の口語に訳する必要がありましょうか。この問題を解決しようと試みることは、この本の序文として適当だろうかと思われます。 単に必要があるかと申しますのは、精しくいえば、時代がそれを要求するかということになりま・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・ような人の書いた物を耽読しているとか、Marx の資本論を訳したとかいうので社会主義者にせられたり、Bakunin, Kropotkin を紹介したというので、無政府主義者にせられたとしても、読むもの訳するものが、必ずしもその主義を遵奉する・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・然るに私は零砕の時間を利用して訳するのだから、三冊物を持ち歩くことが出来ない。それでハルナック本から訳した。ただ疑わしい処をゾフィインアウスガアベで調べて見ただけである。コンメンタアルの類も多少持っている。それも一々読んで置いて訳したのでは・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・その中でF君は私が最も自由にドイツ文を書き、最も正確にドイツ文を訳すると云うことを発見した。しかし東京にいた時の私の生活はいかにも繁劇らしいので、接近しようとせずにいた。その私が小倉へ来た。そこで君はわざわざ東京から私の跡を追って来た。これ・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫