・・・、足はわななき、手はふるえ、満面蒼くなりながら、身火烈々身体を焼きて、恍として、茫として、ほとんど無意識に、されど深長なる意味ありて存するごとく、満身の気を眼にこめて、その瞳をも動かさで、じっと人を目詰むれば他をして身の毛をよだたすことある・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・王手、王手で、そうして詰むにきまっている将棋である。旦那芸の典型である。勝つか負けるかのおののきなどは、微塵もない。そうして、そののっぺら棒がご自慢らしいのだからおそれ入る。 どだい、この作家などは、思索が粗雑だし、教養はなし、ただ乱暴・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・燃えるようなる、二つの眼が光ってわれを見詰むるじゃ。どうじゃ、声さえ発とうにも、咽喉が狂うて音が出ぬじゃ。これが則ち利爪深くその身に入り、諸の小禽痛苦又声を発するなしの意なのじゃぞ。されどもこれは、取らるる鳥より見たるものじゃ。捕る此方より・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫