・・・ 避雷針のようなものの付いた兜形の帽子を着た巡査が、隊の両側を護衛している。 巡査がどれもこれも福々しい人の好さそうな顔をしているのに反して、行列に加わっている人達の顔はみんなたった今人殺しでもして来たように凄い恐ろしい形相をして・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・すると、やがて僕の身辺をそれとなく護衛していたと号する一青年が顕れて、結局酒手と車代とを請求した。給仕女に名刺を持たせてお話をしたい事があるからと言って寄越す人が多い時には一夜に三四人も出て来るようになった。春陽堂と改造社との両書肆が相競っ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・本田家の邸内を護衛していた、小作人組合に入っていない、青年団の青年たちや、消防組員までも、一応は取調べを受けた。 これは一つの暗示であった。 地主共は、誰を信じてよいか? 消防組、青年団は、何のために護衛し、非常線を張り且つか?・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ きょうはあなたの護衛の騎士になってあげるわよ」「ありがとう。でもきょうはいいわ、五時に日比谷で原に会うの」「ハハア」桃子は抑揚をつけてそう云いながら大きく顎をひいて芝居がかりの合点をすると、手にもっていたベレーを振って、シラノ・ド・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・それで今のような、社会民政党の跋扈している時代になっても、ウィルヘルム第二世は護衛兵も連れずに、侍従武官と自動車に相乗をして、ぷっぷと喇叭を吹かせてベルリン中を駈け歩いて、出し抜に展覧会を見物しに行ったり、店へ買物をしに行ったりすることが出・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・従って真に皇室を護衛することになる。この意味で忠義を鼓吹して頂きたい。 小生の手紙の大意は右のごときものであった。ところでこの手紙を書いているうちに、小生が少年時以来養成されて来たと思っていた皇室への情熱が、いつの間にか内容を異にしてい・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫