・・・しかし、炭をたくさん買うだけの資力のないものはどうしたらいいか、それよりしかたはないのだ。近所に、宏荘な住宅はそびえている。それらの内部には、独立した子供部屋があり、またどの室にも暖房装置は行き届いているであろう。そこに生まれ育った子供と、・・・ 小川未明 「三月の空の下」
・・・生計不如意の家は扨置き、筍も資力あらん者は、仮令い娘を手放して人の妻にするも、万一の場合に他人を煩さずして自立する丈けの基本財産を与えて生涯の安心を得せしむるは、是亦父母の本意なる可し。古風の教に婦人の三従と称し、幼にして父母に従い、嫁して・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ これは、わたしたち日本の国民が、すべての公共物を自分たちの計画と資力・労力で建て、それを自分たちで愉快に使う場所とする習慣がなかったからです。つまり、社会万端の施設も、民主の方法で利用されるものでなかったからでしょう。 せまい・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・女子の専門学校や大学の学校仲間というものも、これまでのように、親の資力の大さでそこの生活が保障されて来た娘たちの集り場所であっては、結局、生活の問題までをわかち合う仲間としての友情は生じにくかった。 もうこれからは、どこの図書館でも、婦・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ 独立する資力がないばっかりに、地主の思うがままにみじめな生活をさせられて子供の教育も出来ず、二度とない一生を地主に操られて、働きへらして飼殺し同様にさせられて仕舞う。 小作をしないで暮すと云う事は農民皆が皆の希望だろうけれ共、地主・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・僅かの給料を唯一の資力として微に支えられて行く生活も、いざと云う時、後で手を延して呉れる者が在る間は凌ぎ得ない苦痛ではありませんでした。が、頼るべき何人も何物も無く、全く一人ぼっちに成って見ると、彼女にとって現状のままを引延して予想した未来・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・ナチスには外国の独占資本、反社会主義的であり反人民的な資力が投資しました。これはジュール・ロマンの「世界の七つの謎」にはっきりかかれています。そして、ドイツの迷っている人達を愛国心だの復讐心などに統一して、そして、ヤング案に反対する、農村で・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・彼はそういう住居を建てる資力を持っているかもしれない、しかしそれは彼自身が自分の仕事から得た資力ではないであろう、それならば彼は世間の手前そういう家に住むのを恥ずべきである。そう藤村は考えたのであろう。美しい住居そのものが無意義なのではない・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫